おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。
今回は、「同一労働同一賃金に関する改正省令・告示の解説記事」です。
働き方改革関連法の施行から5年が経過し、厚生労働省の同一労働同一賃金部会における議論を経て、短時間・有期雇用労働法の下位法令である「施行規則」および告示である「同一労働同一賃金ガイドライン」「雇用管理指針」の改定(改正省令・告示)が公布・告示されました。
これらは令和8年(2026年)10月1日から施行・適用されます。
今回の改定は、裁判例の蓄積や非正規雇用労働者の実態調査を踏まえ、各種手当・休暇のルールの明確化や説明義務の強化など、企業実務に直接影響を与える重要な内容が網羅されています。全項目のポイントと社労士視点での実務アドバイスを分かりやすく徹底解説いたします。
この記事で分かること
Ⅰ. 改正の背景と経緯
同一労働同一賃金の導入から5年が経過し、非正規雇用労働者の待遇改善は進んできたものの、正規・非正規間の賃金格差や不合理な待遇差を巡る最高裁判決が相次いで出されました。
また、厚労省の調査(令和5年)によると、正社員との待遇差について「事業主に説明を求めたことがある」と回答した非正規労働者は全体の8.0%、「説明があった」は5.4%にとどまり、説明を求めない理由として「説明を求めることができることを知らない」という回答も一定数見られました。
こうした実態を踏まえ、待遇差の解消と納得感の向上をさらに進めるため、省令・告示の大幅な見直しが行われました。
Ⅱ. 施行規則の改正:雇入れ時明示事項の追加
パート・有期雇用労働者を雇い入れる際、事業主が書面等で明示すべき事項(現行:昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口)に、新たな項目が追加されます。
雇入れ時に正社員との「待遇差の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」を明示しなければならない。
現行法でも、パート労働者は正社員との待遇差について会社に説明を求める権利がありました。しかし、労働者側が「そもそも説明を求めていいことを知らない」「不利益な扱いを受けそうで求めにくい」といった理由で機能していなかったため、「ウチの会社では、正社員との待遇の違いについていつでも説明を求めることができますよ」という一文を、入社時の労働条件通知書に最初から記載することが義務化されたのです。
労働者が説明を求めやすくなるよう、担当部署や連絡先(申出先)も記載することが推奨されています。なお、この明示義務に違反した場合、「10万円以下の過料」に処される罰則は現行通り維持されます。
令和8年10月1日以降に雇い入れるパート・アルバイト・契約社員の「労働条件通知書(雇用契約書)」の改訂が必要です。従来の「昇給・賞与・退職金・相談窓口」の欄に、『当社では、正社員との待遇差の内容や理由について説明を求めることができます(申出先:総務部◯◯担当)』といった文言を記載する準備を進めましょう。
Ⅲ. 「同一労働同一賃金ガイドライン」の改正点(厳格化)
どのような待遇差が「不合理」にあたるかを示すルールブック「同一労働同一賃金ガイドライン」が大幅に改正され、各種手当や休暇についてよりシビアな基準が設けられました。
1. 基本的な考え方の明確化
- ガイドラインに明記のない待遇等の取扱い: ガイドラインに原則や具体例が記載されていない待遇であっても、正社員との相違が不合理と認められる可能性があることが明確化されました。また、待遇体系の議論では労働者の意向を十分考慮することが望ましいとされています。
- 決定基準・ルールの相違: 正社員と非正規で待遇の決定ルールが異なる場合、「将来の役割期待が異なる」といった主観的・抽象的な理由のみでは不十分であり、客観的・具体的な実態に照らして不合理でないことが求められます。
同一労働同一賃金3つの新ルールは下記の記事で詳しく解説しています。
【2026年10月施行】同一労働同一賃金ガイドライン等の大改正!企業が直面する「3つの新ルール」を社労士が徹底解説
2. 各待遇に関する記載の見直し(裁判例の反映)
最高裁判決等の蓄積を踏まえ、以下の待遇について新たな基準が盛り込まれました。
| 手当・休暇の種類 | 改正後のガイドラインによる新基準 |
|---|---|
| 【新規追加】 無事故手当 |
正社員と業務内容が同一のパート・有期労働者には、同一の無事故手当を支給しなければならない。 |
| 【記載の充実】 賞与・退職手当 |
労務対価の後払い、功労報償等の性質・目的を踏まえ、職務内容等の違いに応じた「均衡のとれた内容」でない場合は不合理となり得る。 |
| 【新規追加】 住宅手当 |
転居を伴う配置変更の有無に応じた支給の場合、同一の配置変更があるパート等には同一支給が必要。配置変更の有無によらない支給も、性質・目的に照らした不合理な相違は不可。 |
| 【記載の充実】 病気休職・休暇 |
契約更新を繰り返し継続勤務が見込まれるパート等には、正社員と同一の給与保障(病気休職・休暇)を行わなければならない。 |
| 【新規追加】 褒賞 |
一定期間勤続した労働者への褒賞は、正社員と同一期間勤続したパート等にも同一に付与しなければならない。 |
| 【記載の充実】 福利厚生施設 |
利用料金や割引率等の利用条件について、不合理な違いを設けてはならない。 |
| 【新規追加】 夏季冬季休暇 |
パート等にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない。 |
| 【新規追加】 家族手当・ 配偶者手当の見直し |
継続勤務が見込まれるパート等には同一の家族手当の支給が必要。なお、いわゆる配偶者手当は労使協議により働き方に中立的な制度への見直しが望まれる。 |
3. 実務で陥りやすい「4つの勘違い」の禁止(共通事項)
企業が待遇差を正当化する際の「言い訳」としてよく使われる以下の4点について、ガイドラインで明確に釘が刺されました。
| 正社員の待遇引き下げ による解消はNG |
格差解消にあたり、「正社員の手当をなくして(引き下げて)格差をなくす」という安易な不利益変更は避けるべきであり、パート・有期労働者の条件改善を図ることが基本です。 |
|---|---|
| 「定年後再雇用だから」 は理由にならない |
定年後に有期雇用労働者として再雇用された者も法律の対象です。「定年後再雇用だから賃金が下がっても(待遇差があっても)当然」と直ちに認められるわけではなく、待遇の性質や目的に照らして個別に判断されます。 |
| 「正社員の人材確保のため」 という言い訳は通用しない |
「正社員を定着させるために手当を厚くしている」といった、いわゆる『正社員人材確保論』についても、その目的だけで直ちに待遇差が不合理でない(適法である)とは認められません。 |
| 無期雇用フルタイム (多様な正社員)への配慮 |
法律の対象外である「無期雇用のフルタイム労働者(勤務地限定や短時間正社員など)」についても、労働契約の締結にあたっては本ガイドラインの趣旨が考慮されるべきとされました。 |
特に「住宅手当」「家族手当」「病気休職」「夏季冬季休暇」は、これまで正社員限定にしていた企業が多く、今回の改定で大きな影響を受けます。
「長年契約更新しているパート社員に家族手当や病気休職がない」といった状態は不合理と判断されるリスクが高まるため、賃金規程や就業規則の総点検が急務です。
Ⅳ. 「雇用管理指針」の改正点(職場環境・ルールの改善)
より魅力ある職場を作るため、事業主が講ずべき具体的な指針(雇用管理指針)も追加・強化されました。
| 労働者への「説明方法」の具体化 | 待遇差についての説明は、単に口頭で済ませるのではなく、「資料を活用して口頭で説明する」または「説明事項を全て記載した分かりやすい資料を交付する」こととされました。 |
|---|---|
| 福利厚生施設への配慮 | 給食施設・更衣室・休憩室に加え、新たに「物品販売所、病院、診療所、保育所、駐車場」などの施設についても利用の便宜を図るよう配慮する必要があります。 |
| 正社員への転換支援と情報の公表 | 正社員転換制度の導入に加え、面談等で本人の意向を確認・配慮することが求められます。また、正社員転換制度の内容・実績や教育訓練の取組状況について、自社Webサイト等で定期的に公表することが望ましいとされました。 |
| 評価に基づく賃金決定 | 職務の内容や成果、意欲、能力、経験等を公正に評価し、正社員と共通する評価項目を設けるなどして、昇給等に反映させることが推奨されています。 |
待遇差の説明を求められた際、口頭だけで済ませるのではなく「資料の活用・交付」が求められる点に注意が必要です。あらかじめ各雇用形態の職務内容や手当の決定基準をまとめた「比較表」や「理由説明書」のフォーマットを作成しておくと、いざという時にスムーズに対応できます。
Ⅴ. 令和8年10月1日に向けて企業が取り組むべき実務チェックリスト
施行日(令和8年10月1日)までに、企業側で進めるべき実務対応のステップです。
- ☑️ 【雇入れ時明示事項】雇用契約書・労働条件通知書の改訂
「待遇差についての説明を求めることができる旨」および「相談窓口」を追記した新様式を作成します。厚生労働省のモデル労働条件通知書を参考にアップデートしてください。 - ☑️ 【規程点検】就業規則・賃金規程・手当・休暇規定の点検
特に住宅手当、家族手当、無事故手当、病気休職、夏季冬季休暇について、パート・有期労働者とのバランスを点検します。 - ☑️ 【説明体制】待遇差理由説明書のフォーマット作成
基本給・賞与・手当の決定基準を可視化し、説明を求められた際に客観的な根拠を提示できる体制を整えます。 - ☑️ 【助成金活用】キャリアアップ助成金等の検討
正社員化や手当・賃金規定の共通化を行う場合は、「キャリアアップ助成金」を活用することで取り組み費用や原資の支援を受けることが可能です。
Ⅵ. まとめ
今回の改定は、裁判例や実態に即した非常に具体的な基準が盛り込まれており、企業にはより透明性の高い雇用管理が求められます。
令和8年10月1日の施行に向けて、自社の労働条件通知書や就業規則、賃金体系を今一度チェックし、正規・非正規の双方が納得して働ける職場環境を整えていきましょう!
同一労働同一賃金への対応に不安がある場合や、就業規則の見直しに行き詰まった場合は、47都道府県に設置されている「働き方改革推進支援センター」の無料相談や、お近くの社会保険労務士などの専門家にぜひご相談ください。
全ての労働者が納得感を持って、その能力を最大限に発揮できるクリーンな職場環境を、一緒に作っていきましょう!
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