おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。
近年、働き方改革の後押しもあり、副業や兼業を認める企業が非常に増えてきました。経営者や人事労務担当者の皆様も、「うちの従業員が別の会社でも働き始めた」あるいは「他社で働いている人を自社でも雇い入れた」というケースに直面することが多くなっているのではないでしょうか。
そこでよく問題になるのが、「社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険はどうなるの?」という疑問です。
実は、複数の会社で社会保険の加入条件を満たした場合、通常とは異なる特殊な手続きが必要になります。これを放置してしまうと、後々大きなトラブルにつながりかねません。
今回は、複数の事業所で働く場合の社会保険手続き「二以上事業所勤務届(二以上勤務届)」の仕組みと、雇用保険の取り扱いの違いについて、実務のポイントを分かりやすく解説します。
この記事で分かること
複数の会社で社会保険の加入条件を満たしたらどうなる?
従業員がA社とB社の両方で働いており、両方の会社で社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件を満たした場合、両方の会社で社会保険に加入しなければなりません。
「A社で入っているから、B社では入らなくていいよね」というわけにはいかないのが社会保険のルールです。
しかし、健康保険証を2枚持つことはできませんし、年金記録も一人につき一つです。そこで必要になるのが、メインとなる会社(選択事業所)を1つ決め、年金事務所に情報を統合してもらう手続きです。これが「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届(通称:二以上勤務届)」です。
この手続きを行うことで、従業員はメインの会社の健康保険証を持ち、両方の会社でもらったお給料を合算した額で将来の年金額が計算されるようになります。
「二以上事業所勤務届」の提出先と期限
この手続きは、会社ではなく従業員本人が行うのが原則です。(ただし、実務上はメインとなる会社がサポートして提出を代行することがほとんどです。)
具体的な手続きの流れと期限は以下の通りです。
- 提出書類:健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届
- 提出先:従業員本人が選択した事業所(メインの会社)を管轄する年金事務所、または事務センター
- 提出期限:事実発生から10日以内
10日以内という期限はあっという間に過ぎてしまいます。従業員が他の会社でも働き始めた事実を会社が把握しておらず、手続きが漏れていると、正しい保険料が計算されず、いざという時の傷病手当金や出産手当金の受給額が少なくなってしまうため、十分な注意が必要です。副業を認めている企業は、定期的に就労状況を確認するフローを作っておくことをお勧めします。
社会保険料の計算方法は?(合算と按分)
複数の会社で社会保険に加入した場合、毎月の保険料はどのように計算され、どちらの会社が支払うのでしょうか?
結論から言うと、各会社での報酬(お給料)を合算して全体の社会保険料を算出し、それを各会社のお給料の割合に応じて「按分(割り勘)」して支払います。
言葉だけだと少し分かりにくいので、具体例を見てみましょう。
| 事業所 | 報酬月額 | 保険料の負担割合 |
|---|---|---|
| A社(メイン) | 20万円 | 3分の2(20万 / 合計30万) |
| B社(サブ) | 10万円 | 3分の1(10万 / 合計30万) |
この場合、合算した30万円を基準に標準報酬月額が決定され、全体の保険料が決まります。そして、年金事務所からA社には全体保険料の「3分の2」の納付書が、B社には「3分の1」の納付書がそれぞれ届きます。
各会社は、その通知された金額を従業員の給与から天引きし、会社負担分と合わせて納付することになります。
一見ややこしいですが、従業員側から見れば、複数の事業所で得た報酬をすべて合算して年金記録が計算されるため、将来受け取る老齢厚生年金の額が増えるという大きなメリットがあります。
注意!雇用保険は「1つの事業所」でのみ加入
ここまで社会保険(健康保険・厚生年金)について解説してきましたが、ここで絶対に間違えてはいけない非常に重要なポイントがあります。
それは、「二以上事業所勤務となっても、雇用保険については1つの事業所でしか加入できない」ということです。
社会保険は複数社で加入条件を満たせば「合算・按分」でした。しかし、雇用保険はどれだけ複数の会社で加入要件(週20時間以上かつ31日以上の雇用見込み)を満たしていても、原則として「生計を維持するのに必要な主たる給与を受けている事業所(=一番お給料が多いメインの会社)」の1社でのみ加入します。
| 保険の種類 | 複数就業で要件を満たした場合の取り扱い |
|---|---|
| 社会保険 (健康保険・厚生年金) |
すべての対象事業所で加入する。 給与を合算して保険料を計算し、各社で按分して納付。 |
| 労働保険 (雇用保険) |
「主たる給与を受けている1社」でのみ加入する。 サブの会社では雇用保険に入らず、保険料の天引きもしない。 |
人事労務の担当者様は、社会保険と雇用保険で取り扱いが全く異なるため、給与計算の設定等を間違えないように細心の注意を払ってください。(※労災保険は全事業所で適用されます)
届出を忘れた場合の恐ろしいリスク
もし、従業員が他社でも社保に入っていることに気づかず「二以上事業所勤務届」を提出していなかったらどうなるでしょうか。
年金事務所側でマイナンバー等を通じて複数就業が発覚した場合、会社に指導が入ります。提出が遅れたり漏れたりすると、過去に遡って多額の社会保険料の差額を一括で請求される重大なリスクや、従業員が将来もらえる年金額が正しく反映されずに減ってしまうという致命的な不利益が生じる可能性があります。
悪質な手続き逃れと判断された場合は、罰則が科される恐れもありますので、副業をしている従業員を雇用する際は、必ず他社での社会保険の加入状況を確認してください。
まとめ
今回は、副業時の社会保険手続き「二以上勤務届」と、雇用保険との取り扱いの違いについて解説しました。
社会保険は「複数社で加入して合算・按分」、雇用保険は「メインの1社でのみ加入」。この原則をしっかり押さえておきましょう。
- 参考リンク:日本年金機構(複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き)
- 参考リンク:厚生労働省(雇用保険制度)
当事務所では「二以上事業所勤務届」の提出代行は全国対応しております。
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