おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。

毎年6月に入ると、企業の総務・人事担当者の机に緑色の大きな封筒が届きます。「労働保険の年度更新」の時期ですね。
労働保険の年度更新は、企業のコンプライアンス遵守を対外的に証明するのみならず、キャッシュフロー管理における「戦略的節目」でもあります。

この手続きは、前年度の精算(確定)と新年度の予払い(概算)を同時に行うため、実質的に「24ヶ月分の保険料」を一つの窓口で一気に整理するという、経営上のインパクトが非常に大きい業務であることを認識しなければなりません。

今回は、令和8年度(2026年度)の労働保険年度更新について、申告書の書き方から雇用保険率引き下げのポイント、そして対象者の判定基準まで、初心者にも分かりやすく表を使って徹底解説します。ぜひ実務のマニュアルとしてご活用ください!

当事務所では、年度更新の作成・提出代行を全国一律10,000円(税抜、10人まで、建設業以外)で承っております!

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1. 令和8年度年度更新の全体像と実務上の重要性


まずは、労働保険の年度更新がどのような構造で成り立っているのか、全体像を把握しましょう。

令和8年度更新の基本構造

本年度の申告・納付期間は、令和8年6月1日(月)から7月10日(金)までです。

確定保険料 令和7年度(R7.4.1~R8.3.31)に実際に支払った賃金総額に基づく「精算」です。
概算保険料 令和8年度(R8.4.1~R9.3.31)の賃金総額見込額に基づく「前払い」です。
一般拠出金 石綿(アスベスト)健康被害救済法に基づき、確定保険料と併せて申告・納付するものです。

実務の外部委託に関する背景と期限厳守

近年、厚生労働省は事務効率化のため、申告書の送付や審査業務を民間業者へ委託しています。送付元の封筒や問い合わせ先のセンター名が官公署名でない場合もありますが、これは正規の行政フローです。現場の担当者は、偽造書類等と混同せず、速やかに開封・確認を行ってください。

もし7月10日の期限を徒過して(過ぎて)しまうと、政府による保険料の認定決定が行われ、さらに追徴金(10%)が課される重大なリスクが生じます。期限は必ず厳守してください。

2. 【図解】年度更新完了までの5ステップ・チャート


ベテランの社労士が推奨する、ミスを最小限に抑えるための標準フローは以下の通りです。

ステップ 実務内容と注意点
Step 1: 申告書の照合
(最重要)
5月末に届く申告書の「印書内容(労働保険番号、名称、所在地等)」を確認します。
※注意:印書内容に誤りがある場合、自ら修正液等で訂正してはいけません。必ず所轄の都道府県労働局に照会してください。
Step 2: 賃金総額の集計 令和7年度の確定賃金と、令和8年度の見込額を算出します。対象労働者の範囲(後述のセクション6参照)を厳密に判定します。
Step 3: 保険料の計算 令和8年度の「新・雇用保険率」を概算分に適用します。確定分と概算分で料率が異なる点に注意が必要です。
Step 4: 申告・納付の実行 e-Gov等による電子申請、または金融機関・労働局の窓口で実施します。
Step 5: 法定書類の保存 申告書控え、賃金台帳、計算の根拠資料を3年間保存します。
【社労士のアドバイス:納付書誤記入のリカバリー】
申告書一体型の「領収済通知書(納付書)」の金額欄は、訂正印による修正が一切認められず、書き損じると労働局等へ新しい用紙をもらいに行く手間と手続き遅延のリスクが発生します。期限当日に発覚すると手遅れになるため、窓口提出の場合は予備の白紙の納付書を事前に手元へ置いておくのが実務の鉄則です。

3. 申告書記入における重要ポイントと「計算の落とし穴」


申告書の正確性は、将来の労働局調査(実地調査)におけるリスクヘッジに直結します。特に「端数処理」と「料率の切り替え」が勝負どころです。

項目別記入要領

  • ⑧算定基礎額(確定分): 令和7年度の賃金総額。1,000円未満切り捨てです。
    【重要】 労働保険料の基礎額と、一般拠出金の基礎額は、それぞれ個別に1,000円未満を切り捨てて計算してください。
  • ⑩確定保険料・一般拠出金: 一般拠出金は「0.02/1000」を乗じます。
    (例)賃金総額1,000万円の場合:10,000,000 × 0.00002 = 200円。
  • ⑫見込額(概算分): 前年度の賃金総額比で「0.5倍以上~2倍以下」の変動であれば、前年度の実績額をそのまま流用できます。
  • ⑭概算保険料: 令和8年度の「新・雇用保険率」を適用します。

雇用保険率改定に伴うインパクト分析

令和8年度は雇用保険率が引き下げられます。

事業の種類 R7年度(確定分)の料率 R8年度(概算分)の料率
一般の事業 14.5 / 1,000 13.5 / 1,000
建設の事業 17.5 / 1,000 16.5 / 1,000

【戦略的分析】
賃金総額が昨年と横ばいであっても、概算保険料は確定保険料よりも低くなる傾向にあります。予算策定時には、単なる「前年並み」ではなく、この「1.0/1,000」の引き下げ効果を織り込んだキャッシュフロー予測を立てるべきです。

4. 電子申請と口座振替による事務DXの推進


窓口の混雑回避だけでなく、ミスの防止と資金繰りの最適化という観点から、デジタルの活用は不可欠です。

電子申請(e-Gov等)のメリット

  • GビズIDの活用: 無料で取得でき、電子証明書の添付が不要になります。小規模事業者にとってコスト削減のメリットは絶大です。
  • 入力の正確性: 前年度の申告内容を引き継げるため、労働保険番号などの転記ミスを物理的に排除できます。

口座振替制度による資金繰り対策

口座振替を利用すれば、納期限が最大約2ヶ月猶予されます。

  • 令和8年度 振替日(第2期以降): 第2期:8月14日、第3期:10月13日。

一括納付の負担を軽減し、キャッシュを温存する手段として非常に有効です。

【社労士のアドバイス:アドバイザー支援の活用】
電子申請の導入にハードルを感じる場合は、厚生労働省の「電子申請未利用事業場アドバイザー等事業」による無料支援を検討してください。初期設定のオンラインサポートを受けられるため、DX化への絶好の機会となります。

5. 事業形態別・実務処理の相違点(継続事業 vs 一括有期事業)


建設業や立木伐採業など、現場ごとに事業が成立する「一括有期事業」は、一般の継続事業とは計算ルールが根本的に異なります。

一括有期事業の特有ルール

  • 二元適用の原則: 労災保険と雇用保険は、それぞれ別個の申告書を作成・提出しなければなりません。
  • 労災保険料の算定特例: 正確な賃金把握が困難な現場については、「請負金額 × 労務費率」を算定基礎とすることが認められています。
    ※超重要: この請負金額による計算特例は、「労災保険分」に限り適用されます。雇用保険分は原則通り、実際に支払った賃金総額を集計する必要があります。
  • 必要書類: 申告書のほか「一括有期事業報告書」が必要です。建設業は「総括表」も必須となります。
【社労士のアドバイス:元請責任の再確認】
建設業の労災保険においては、現場の「元請負人」が事業主とみなされます。自社の社員だけでなく、下請負人が使用するすべての労働者の賃金(または相当額)を算入して申告・納付する責務があることを失念しないでください。

6. 【リファレンス】労働保険対象者の判定基準一覧


賃金集計の際、「誰を対象に含めるか」の判断ミスが最も多く発生します。以下の表に基づき、最終チェックを行ってください。

対象者・賃金判定テーブル

区分 労災保険の取扱い 雇用保険の取扱い
代表取締役・執行役員 対象外。
指揮監督下になく、賃金を得る労働者ではない。
対象外。
代表権・業務執行権を持つ者は被保険者にならない。
兼務役員
(部長兼取締役等)
原則として「労働者部分」の賃金のみ算入。役員報酬は除外。 労働者的性格が強く、雇用関係が認められる場合のみ、賃金分のみ対象。
同居の親族 原則対象外。
ただし、他の労働者と同様の就業実態・管理下にある場合は例外あり。
原則対象外。
ハローワークへの実態確認書類の提出と承認が必須。
派遣労働者 派遣元で適用。派遣先での集計は不要。 派遣元で適用。
算入する賃金 基本給、賞与、通勤手当(課税・非課税問わず)、超過勤務手当、定額の在宅勤務手当。
不算入とするもの 役員報酬、結婚祝金、退職金、出張旅費(実費弁償分)、解雇予告手当。
【社労士のアドバイス:65歳以上の労働者への注意】
「雇用保険マルチジョブホルダー制度」により、2つの事業所で勤務する65歳以上の労働者が特例的に被保険者となっている場合があります。本人の申出に基づきハローワークで手続きがなされているか、算定漏れがないよう確認してください。

マニュアルの総括


令和8年度の年度更新は、「印書内容の未修正」「R8雇用保険率の正確な適用」「電子申請によるミスの撲滅」が完遂への三原則です。
特に、雇用保険率の引き下げに伴う概算保険料の圧縮は、キャッシュフローの観点からプラスに働きます。7月10日の申告・納付期限を死守し、健全な労務管理を継続しましょう。

労働保険の年度更新は計算や判定が複雑で、実務担当者の大きな負担となります。イレギュラーなケースの判断や、電子申請への移行でお悩みの場合は、専門家である社会保険労務士にお気軽にご相談ください。

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