おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。
最近、ニュースやSNSなどで「第3号被保険者制度(いわゆる専業主婦・主夫年金)の縮小・廃止」に関する議論をよく目にするようになりました。
「保険料を払っていないのに年金がもらえるのはズルい」「働く女性や単身者から見て不公平だ」といった声が上がる一方で、「子育てや介護を担う層を切り捨てるのか」といった反発もあり、賛否両論が巻き起こっています。
しかし、年金制度の専門家である社労士の目線から見ると、世間で語られている「不公平論」の中には、制度の仕組みを正しく理解していないがゆえの「的外れな批判」も少なくありません。
今回は、第3号被保険者制度ができた経緯を振り返りながら、世間の誤解を解き、もし本当に制度を廃止するならどうするべきなのか、そして立ちはだかる「法改正の壁」について分かりやすく解説します。
この記事で分かること
そもそも「第3号被保険者制度」はなぜできたのか?(経緯)

国民年金には、自営業者などの「第1号被保険者」、会社員や公務員などの「第2号被保険者」、そして第2号に扶養されている配偶者である「第3号被保険者」の3種類があります。
この第3号被保険者制度は、昭和60年(1985年)の年金大改正によって誕生しました。
それ以前はどうなっていたかというと、サラリーマンの妻(専業主婦)は国民年金に「任意加入」でした。しかし、加入手続きをしないまま放置している人が多く、夫と離婚したり死別したりした場合に、妻自身が「無年金」になってしまうという社会問題が多発していたのです。
そこで、女性の年金権(自分名義の年金をもらう権利)を確実に保護するために創設されたのが第3号被保険者制度です。当時は「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という片働き世帯がマジョリティであったため、時代背景にマッチした救済措置でした。
なぜ今?第3号の「縮小・廃止」が議論される背景

では、なぜ今になってこの制度がやり玉に挙げられているのでしょうか。主な理由は以下の2点です。
① ライフスタイルの変化(共働き世帯の増加)
昭和の時代とは打って変わり、現在は「共働き世帯」が「専業主婦世帯」の2倍以上と圧倒的多数を占めています。また、生涯未婚の単身者も増えています。自分で保険料を納めている働く女性や単身者から見て、「保険料を直接納めていないように見える」第3号が優遇されていると感じる人が増えたのです。
② 人手不足と「年収の壁」問題
第3号被保険者でいるためには、年収を一定額(130万円など)未満に抑える必要があります。この「年収の壁」を意識して就業時間を抑える「働き控え」が、深刻な人手不足に悩む日本経済全体にとって大きなマイナス要因となっています。
「1号は扶養がないから不公平」という意見は的外れ!

第3号被保険者への批判の中でよく耳にするのが、「自営業者(第1号被保険者)の妻は自分で国民年金保険料を払っているのに、会社員(第2号被保険者)の妻だけ扶養があって保険料がタダなのは不公平だ!」という意見です。
一見もっともらしく聞こえますが、実はこの比較は完全に的外れです。なぜなら、1号と2号では「保険料の負担の仕組み」が根本的に違うからです。
| 被保険者種別 | 保険料の負担方法 |
|---|---|
| 第1号(自営業等) | 自分自身の国民年金保険料(定額)を直接納付する。 |
| 第2号(会社員等) | 給与に応じた厚生年金保険料を労使折半で納付する。 |
| 第3号(2号の被扶養配偶者) | 直接の納付はない。 ※2号全体が納めた保険料から一括して拠出される。 |
表の通り、第3号被保険者の年金原資(基礎年金拠出金)は、決して国からタダでもらっているわけではなく、第2号被保険者(独身者や共働きを含む会社員全体)が納める厚生年金保険料の中から一括して支払われています。
つまり、第1号は「自分の分は自分で払う独立採算」、第3号は「第2号というグループ全体で支え合う連帯方式」なのです。前提となる土俵が違うものを並べて「不公平だ」と批判するのは、制度の仕組みを理解していない的外れな意見と言わざるを得ません。
- 参考リンク:日本年金機構(年金用語集:第3号被保険者)
3号廃止なら「2号の保険料を下げる」のが筋!しかし立ちはだかる18.3%の壁

さて、ここからが本題です。
もし仮に、世間の声に押されて第3号被保険者制度を廃止(あるいは大幅縮小)することになったとしましょう。元3号の人たちは、自分で第1号になるか、働いて第2号になり、自分自身で保険料を負担することになります。
そうなった場合、「これまで第3号の分を負担してあげていた第2号被保険者(会社員全体)の保険料は、その分安くならなければおかしい」というのが論理的な「筋」です。
これまで2号の財布から出ていた3号分の負担(基礎年金拠出金)が減るわけですから、当然、厚生年金保険料率は引き下げられるべきですよね。
しかし、現状ではそれができません。
なぜなら、平成16年(2004年)の年金制度改正により、厚生年金保険料率は段階的に引き上げられ、平成29年(2017年)9月以降は「18.3%(労使折半で9.15%ずつ)」で上限固定されているからです(保険料水準固定方式)。
- 参考リンク:日本年金機構(年金用語集:保険料水準固定方式)
第3号被保険者制度を廃止し、それに伴って第2号の保険料率を適正に下げるためには、この「18.3%固定」という現行法を改正するという、極めて高いハードルを越えなければなりません。
国としては、せっかく18.3%で固定して安定させている財源(保険料)を手放したくないのが本音でしょう。だからこそ、「3号を廃止して、浮いた財源は別の少子化対策などに回そう」といった、筋の通らない議論が出てきがちなのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、第3号被保険者制度の廃止議論について解説しました。
「専業主婦は優遇されているから廃止しろ」という単純な感情論で制度をいじると、年金制度全体のバランスが崩れてしまいます。
もし本当に3号制度を廃止するのであれば、「18.3%固定の法律」を見直し、負担が減るはずの第2号被保険者(会社員や企業)にしっかり還元(保険料引き下げ)する仕組みとセットで議論されなければなりません。単純な廃止論に騙されないよう、本質を見極めることが重要です。
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