今日は、同一月内に2度転職した場合の社会保険料の取り扱いについて解説します。

おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。

今回、こんなマニアックなご相談をいただきました。

「今月、長年勤めた会社を定年退職したんですが、すぐに別の関連会社に再就職しました。でも事情があって数日でそこも辞めてしまい、さらに同じ月内に別の新しい会社に就職したんです。この場合、今月の社会保険料っていったいどうなるんでしょうか?」

つまり、「同じ月の中で、退職→就職→退職→就職」を繰り返した場合の社会保険料のお話です。

「社会保険料は日割り計算されないって聞くけど、まさか入社した会社の数だけ二重、三重に引かれるの!?」と不安になりますよね。

今回は、この非常にレアで複雑な「同一月内での2度転職」について、健康保険と厚生年金保険のルールの違いや、給与計算担当者が泣かされる「還付の罠」まで、社労士が徹底解説いたします!

1.社会保険料の大原則:日割り計算は一切なし!


具体的なケースを見る前に、社会保険料の徴収ルールの大原則をおさらいしておきましょう。

健康保険法や厚生年金保険法では、保険料は「月単位」で計算され、たとえ1日しか在籍していなくても、月の途中で入退社しても、日割り計算は一切行われません。

基本的なルールは以下の2つです。

  1. 月末に在籍しているかどうか: 保険料は「被保険者資格を喪失した日(退職日の翌日)が属する月の前月まで」徴収されます。つまり、月末時点で在籍している会社の保険料を支払うのが原則です。
  2. 同月得喪(どうげつとくそう)の特例: 同じ月に「入社」して、同じ月に「退職」した場合(これを同月得喪と呼びます)、例外的にその月の保険料が1ヶ月分丸々徴収されます。

2.【ケーススタディ】A社・B社・C社の保険料はどうなる?


それでは、冒頭の相談者様のケースに当てはめて考えてみましょう。
同じ月(例えば10月)に、以下のような経歴を辿ったとします。

【前提条件:すべて同じ月(10月)の出来事】

  • ・A社: 長年勤めていたが、10月5日に定年退職。
  • ・B社: 10月6日に関連会社に入社したが、事情により10月15日に退職。
  • ・C社: 10月20日に別の新しい会社に入社し、そのまま月末を迎えた。

この場合、それぞれの会社での社会保険料の徴収はどうなるのでしょうか。

会社 状況と判定 保険料の徴収
A社 前月(9月)から引き続き被保険者であり、10月途中に退職(資格喪失)した。月末に在籍していないため、10月分の保険料はかかりません。 【徴収なし】
B社 10月中に入社し、10月中に退職した。これは「同月得喪」にあたるため、例外的に1ヶ月分の保険料が発生します。 【1ヶ月分 徴収あり】
C社 10月中に入社し、そのまま月末まで在籍している。当然ながら、10月分の保険料が発生します。 【1ヶ月分 徴収あり】

表を見ると、B社とC社の両方で「1ヶ月分の徴収あり」となっていますね。しかし、ここからが社会保険の本当に複雑なところです。
実は、「健康保険」と「厚生年金保険」で、最終的な結論が全く異なります。

3.健康保険は「2ヶ月分」取られる!?その理由は?


まず、健康保険料についてです。
結論から言うと、このケースでは「同じ月(10月)なのに、健康保険料はB社とC社の両方から、合計2ヶ月分が徴収される」ことになります。

「えっ!?同じ月なのに2ヶ月分も取られるなんておかしい!」と思われるかもしれませんが、これにはきちんとした理由があります。

【なぜ健康保険は2ヶ月分取られるのか?】
健康保険は、年金とは異なり「短期の医療保険」です。たとえB社に数日しか在籍していなかったとしても、その間に病気やケガをして病院に行けば、B社から発行された健康保険証を使って「3割負担」で医療給付を受けることができます。
つまり、「1日でも被保険者であれば、高額な医療給付が発生する可能性がある」ため、そのリスクに対する対価として、同月得喪であっても日割りはせず、きっちり1ヶ月分の保険料を徴収するルールになっているのです。公的な保険として、煩雑な日割り事務を避ける目的もあります。

したがって、B社の給料からも、C社の給料からも、それぞれ健康保険料が天引きされるのが「正解」となります。

4.厚生年金は「1ヶ月分」。でも実務担当者は要注意!


一方、厚生年金保険料はどうなるのでしょうか。

厚生年金は、将来もらえる年金額を計算するための「期間(月数)」を積み上げる長期の保険です。同じ10月という月に、B社とC社で「2ヶ月分の加入期間」をつけることは物理的・制度的に不可能です。

そのため、厚生年金保険法では、同月内に「取得→喪失」し、さらにその月内に別の会社で「取得」した場合は、後から入社した会社(C社)でのみ被保険者期間を1ヶ月として計算し、保険料もC社でのみ1ヶ月分徴収するというルールになっています。

⚠️【社労士の警告】B社の給与計算担当者が陥る「還付の罠」

法律上は「C社でのみ徴収」で解決ですが、実際の給与計算の現場では大問題が発生します。
B社の担当者は、従業員が10月15日に退職した時点では、彼がその後C社に入社するかどうかなんて知る由もありません。ルール通り「同月得喪だから」と、退職時の給与から厚生年金保険料をきっちり天引きして、国に納付してしまいます。

その後、本人がC社に入社し、年金事務所でC社の取得手続きが行われると、年金事務所のシステム上で「あ、この人同じ月にB社とC社に入ってる!厚生年金はC社が優先だから、B社の保険料は返しなさい」と判明します。

B社に起こる悲劇
(還付手続き)
後日、年金事務所からB社宛てに「厚生年金保険料の還付通知書」が届きます。B社は、国から返金された厚生年金保険料(本人負担分)を、すでに退職して連絡がつきにくい元従業員の口座にわざわざ振り込んで返還するという、非常に面倒な事務作業を強いられることになります。

もし皆さんがB社の立場で、数日で辞めた従業員から「厚生年金保険料を返し忘れていませんか?」と問い合わせが来たら、この「同月得喪+再就職」の還付処理が発生している可能性が高いです。

まとめ


「同一月内での2度転職」というレアケースにおける社会保険料の取り扱いをまとめます。

  • 社会保険料に「日割り計算」はありません。
  • 健康保険料: 同月に入退社した会社(B社)と、月末に在籍している会社(C社)の両方から徴収されます(1ヶ月に2ヶ月分払う)。
  • 厚生年金保険料: 期間が重複しないよう、後から入社した会社(C社)でのみ徴収されます(1ヶ月分だけ)。
  • 先に退職したB社で厚生年金が引かれていた場合、後日B社から本人へ還付(返金)されます。

このように、社会保険のルールは「健康保険」と「厚生年金」で全く異なる結論になることがあり、給与計算担当者を大いに悩ませます。とくに「同月得喪」が絡むケースは、保険料の引きすぎや徴収漏れ、還付トラブルが多発する危険地帯です。

「退職した社員の社会保険料の引き方が分からない」「年金事務所から還付通知が来たけれど処理方法が不安だ」といった場合は、自己判断せず、ぜひ専門家である社会保険労務士にご相談ください!

コメントや相談したいことがある方はぜひ公式LINEからお気軽にご連絡ください。
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