失業保険もらいながら、扶養に入れる?

おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。

人事労務の現場や、従業員の方からのご相談で非常に多いのが、「妻が今月末で会社を退職します。しばらく雇用保険の失業給付(基本手当)を受けるつもりらしいのですが、私の社会保険の扶養に入れることはできますか?」という質問です。

退職して無職になるのだから、当然すぐ扶養に入れるだろうと思い込んでいる方が多いのですが、実はここに大きな落とし穴があります。失業給付(基本手当)も立派な収入としてカウントされるため、もらえる金額によっては扶養に入れない期間が発生するのです。

今回は、退職後の社会保険の扶養認定における「年収130万円の壁」の正しい考え方と、失業給付をもらう人が絶対に知っておくべき「日額3,611円の壁」について、社労士が分かりやすく徹底解説します!

1. 扶養の基本ルール:「退職後」の見込み収入で判断する


まず、健康保険の被扶養者(扶養家族)になるための基本的な条件をおさらいしましょう。

大原則として、被扶養者になる方の「年間収入が130万円未満(60歳以上や一定の障害がある場合は180万円未満)」であり、かつ「被保険者(夫など)の年間収入の2分の1未満」であることが必要です。

【最重要ポイント】年間収入とは「過去」ではなく「未来」のこと!
退職者の扶養認定において最も勘違いされやすいのがここです。この「年間収入」というのは、1月~12月の過去の収入のことではありません。
退職した「翌日以降」に向こう1年間でどれくらい稼ぐ見込みがあるか(退職後の見込み収入)によって判断されます。

つまり、退職するまでに今年すでに300万円稼いでいたとしても、退職した翌日からの見込み収入がゼロ(または基準額未満)であれば、退職したその日から扶養に入ることができるのです。

2. 失業給付(基本手当)は「収入」に含まれる!


「退職後は無職になるから、見込み収入はゼロでしょ?」と思われるかもしれません。しかし、ここに大きな罠があります。

健康保険における収入見込みには、パートやアルバイトの給与だけでなく、以下の公的な給付金もすべて「収入」としてカウントされてしまいます。

扶養判定の「収入」に含まれる公的給付の例
・雇用保険の失業給付(基本手当)
・公的年金(老齢年金、遺族年金、障害年金など)
・健康保険からの傷病手当金、出産手当金
・労災保険からの休業補償給付など

税金(所得税など)の計算では非課税となる失業給付や傷病手当金ですが、社会保険の扶養の判定においては「手取り収入」としてガッツリ計算に入れられてしまう点に十分注意してください。

3. 運命の分かれ道!「基本手当日額3,611円」の壁


失業給付が収入に入ることは分かりました。では、失業給付をもらう人は絶対に扶養に入れないのでしょうか?

結論から言うと、「もらえる失業給付の1日あたりの金額(基本手当日額)」によって、扶養に入れるかどうかが決まります。
そのボーダーラインとなるのが「日額 3,611円」という数字です。(※60歳未満の場合)

なぜ「3,611円」なのか?(計算のロジック)

扶養の条件である「年間収入130万円未満」を、1日あたりに換算して計算します。健康保険法では、暦月を30日として計算するルールがあります。

【計算式】
1,300,000円 ÷ 360日 = 3,611.111…円

つまり、失業給付の基本手当日額が「3,611円以下」であれば、毎日もらい続けたとしても年間130万円未満に収まるため、失業給付をもらいながらでも夫の扶養に入ることができるのです。

4. 【状況別】妻が扶養に入れる「タイミング」早見表


基本手当日額が3,611円を超えるか超えないかで、手続きのタイミングが大きく異なります。
以下の表でご自身の状況を確認してください。

基本手当日額の状況 扶養に入れるタイミングと対応
日額が「3,611円以下」の場合 【退職日の翌日】からすぐに扶養に入れます。
失業給付を受給している期間中も、ずっと扶養に入ったままでOKです。
日額が「3,612円以上」の場合

※多くの方はこちらに該当します

失業給付を「実際に受給している期間」は、収入基準をオーバーするため扶養に入れません。この期間は、ご自身で国民健康保険・国民年金に加入し、保険料を支払う必要があります。
ただし、以下の2つのタイミングであれば扶養に入ることができます。

  • ① 退職後から、失業給付の「受給が始まるまでの間(待期期間や給付制限期間)」
  • ② 失業給付の「受給がすべて終了した翌日」から
⚠️ 注意:給付制限期間中の「一時的な扶養入り」について
自己都合退職などで給付制限期間(2ヶ月など)がある場合、その「無収入の期間」だけ一旦夫の扶養に入り、給付が始まったら扶養を抜け(国民健康保険に切り替え)、給付が終わったらまた扶養に入る…という手続きをとることは可能です。ただし、短期間で加入と脱退の手続きを繰り返すことになるため、夫の会社の人事担当者とよく相談の上、漏れなく手続きを行う必要があります。

5. 会社が行うべき手続き(被扶養者異動届)


従業員から「妻を扶養に入れたい」と申し出があった場合、会社(事業主)は速やかに手続きを行う必要があります。

提出書類 健康保険 被扶養者(異動)届
国民年金 第3号被保険者関係届(※配偶者が20歳以上60歳未満の場合セットで提出)
提出期限 扶養の事実が発生した日から「5日以内」
提出先 管轄の年金事務所(郵送の場合は事務センター)、または健康保険組合
添付書類(エビデンス)
※重要
退職の事実と、失業給付の状況を証明する書類が必要です。
・退職証明書 または 離職票のコピー
・(失業給付を受給終了して扶養に入る場合)雇用保険受給資格者証のコピー(※裏面の支給終了の印字が確認できるもの)

まとめ


退職した配偶者を扶養に入れる際、失業給付(基本手当)を受給する場合は「日額 3,611円」という数字が運命の分かれ道になります。

  • 日額3,611円以下なら、受給しながらでも扶養に入れます。
  • 日額3,612円以上なら、受給期間中は扶養に入れず、国民健康保険への加入が必要です(受給終了後は再度扶養に入れます)。

従業員が退職予定の配偶者の扶養について相談してきた際は、まずハローワークで決定される基本手当日額と給付制限の有無をしっかり確認するよう案内してください。

社会保険の扶養認定手続きは、タイミングを間違えると保険料の二重払いや、後からの遡及取り消しによる医療費の返還など、大きなトラブルに発展する可能性があります。手続きに不安がある場合は、ぜひ専門家である社会保険労務士にご相談ください。

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