おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。
従業員から育児休業の申し出があった際、人事・労務担当者が直面する最大の難関の一つが「育児休業給付金」の申請手続きです。
育児休業を取得する従業員の生活を支えるこの給付金は、原則として事業主が管轄のハローワークへ提出しなければなりません。
特に「初回申請」は、「受給資格の確認」と「初回の支給申請」を同時に行う極めて重要な手続きです。申請内容に不備があると給付が遅れ、最悪の場合は従業員の生活に大きな支障をきたす恐れがあります。
本マニュアルでは、社会保険労務士の視点から、事業主(担当者)が初回申請をミスなく完遂するための書き方や、間違いやすいポイントを絞って徹底解説します。ぜひ実務のチェックリストとしてご活用ください!
1. 事前準備:申請に必要な書類と情報の整理
申請書を作成する前に、まずは必要な書類を手元に揃えるところからスタートします。従業員本人から提出してもらうものと、会社側で用意するものをしっかり区別して管理しましょう。
従業員から入手すべき書類・情報
| 母子健康手帳のコピー | 「表紙」および「出生届出済証明」のページが必要です。育児を行っている事実確認に必須のエビデンスとなります。 |
|---|---|
| 振込先口座情報 | 本人名義の通帳やキャッシュカードのコピー。 【注意】マイナポータルに登録された「公金受取口座」を利用する場合は32欄へ「1」と記入するのみで足りますが、もし口座情報を直接記入し、かつ公金受取口座も希望した場合、ハローワークの処理上は「手書きの口座情報」への振り込みが優先されます。思わぬ口座に振り込まれないよう注意が必要です。 |
| 個人番号(マイナンバー) | 12桁の個人番号。番号確認と身元確認を必ず行ってください。 |
| 配偶者の育休取得状況 | 「パパ・ママ育休プラス」や、2025年4月施行の「出生後休業支援給付金」を申請する場合に配偶者の情報や取得状況の確認が必要です。 |
| 記載内容に関する同意書 | 会社が代筆・申請を行う場合、本人の申請であることを証明するため書面で取得し、会社で保管する義務があります(ハローワークからの調査対象となる場合があります)。 |
会社側で用意する書類
- 賃金台帳: 給付額の算定基礎となる賃金額を確認するため。(休業開始前のものと、休業中のもの両方)
- 出勤簿(またはタイムカード): 休業前および休業期間中の就業実績(出勤日数や時間)を客観的に証明するため。
2. 「育児休業給付受給資格確認票・(初回)支給申請書」の書き方

初回の申請で最もつまづきやすいのが、この書類の記入です。
主要な項目の記入ルールを以下のテーブルにまとめました。特に、枠の数え方や、あえて「空欄」にするケースに注意してください。
| 項目番号 | 項目名 | 記入内容と注意点(社労士の視点) |
|---|---|---|
| 1欄 | 被保険者番号 | 11桁の番号を記入。※雇用保険被保険者証の番号が16桁(上下2段)で表示されている場合は、下段の10桁のみを記入します。 |
| 4欄 | 事業所番号 | 最初の4枠に4桁、次の6枠に6桁を記入し、最後の1枠は必ず「空枠(空白)」にしてください。 |
| 5欄 | 育休開始年月日 | 実際の育休開始日を記入します。【超重要】労働基準法の産後休業(産後8週)から引き続いて直接育休に入る女性従業員の場合は、ここは空欄(記載不要)となります。 |
| 6欄 | 出産年月日 | 育休に係る子の誕生日を記入します。 |
| 9欄 | 個人番号 | 12桁のマイナンバーを記入。 |
| 13, 17, 21欄 | 支給単位期間 | 育休開始日から「1ヶ月ごと」の区切りを記入します。暦月(1日〜末日)ではありません。(例:4月5日開始なら、4/5〜5/4、5/5〜6/4…となります) |
| 14, 18, 22欄 | 就業日数 | 支給単位期間中に就業した日数を記入。10日を超える場合は就業時間(15欄等)を記入し、80時間超働いた月はその期間の給付は不支給となります。 |
| 16, 20, 24欄 | 支払われた賃金額 | 各期間に支払われた賃金の額面。※3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)は除外してください。 |
| 27欄 | パパ・ママ育休プラス | 制度を利用し、子が1歳2ヶ月に達するまで延長取得する場合は「1」を記入します。 |
| 28, 29欄 | 配偶者情報 | 出生後休業支援給付金を申請する場合、配偶者の被保険者番号等を記入します(両親共に14日以上の育休取得が要件です)。 |
育児休業給付金の支給額は、原則として「賃金日額の50%」ですが、休業日数(出生時育児休業を含む)が通算して180日に達するまでの期間は、手厚い「67%」の給付率が適用されます。従業員からの「最初は多くもらえると聞いたのですが?」という質問には、この180日ルールを説明してあげてください。
3. 「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」の書き方
給付額のベースとなる「賃金日額」を決定するための最重要書類です。ここを間違えると給付金が少なくなってしまう可能性があります。
- 期間の遡及(7欄・8欄): 原則として、育児休業開始日の前日から遡り、「賃金支払基礎日数が11日以上」または「就業時間が80時間以上」ある月を、丸々12ヶ月分記入します。
- 賃金額の記入(11欄):
- A欄: 月給・週給などの固定給。
- B欄: 残業代・日給・時給などの変動給。
- 算定対象: 基本給だけでなく、通勤手当や住宅手当も含めます。しかし、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賞与は一切含めません。
- 事業主証明: 令和3年より押印は任意(省略可能)となりました。
4. 添付書類チェックリストと提出期限・修正方法
提出前に、以下の書類に漏れがないか最終確認を行ってください。
☑️ 提出前チェックリスト
- [ ] 母子健康手帳のコピー(表紙および出生届出済証明)
- [ ] 振込先口座の確認書類(通帳またはキャッシュカードのコピー)
- [ ] 賃金台帳のコピー(算定対象期間および休業期間分)
- [ ] 出勤簿またはタイムカードのコピー
- [ ] 住民票の写し等(パパ・ママ育休プラスや出生後休業支援給付金利用時、または配偶者の被保険者番号が不明な場合)
- [ ] 【社内保管】記載内容に関する同意書(従業員に代わって申請する場合)
提出期限に関する厳格なルール
初回申請の提出期限は、「育児休業開始日から起算して4ヶ月を経過する日の属する月の末日まで」です。
(例:4月16日開始の場合、4ヶ月後の8月16日が属する月の末日=【8月31日】が期限となります)
万が一提出を失念し、期限を過ぎて時効(2年)を迎えてしまうと、従業員の受給権が完全に消滅してしまいます。また、時効前であっても申請が遅れればそれだけ従業員への振り込みが遅れ、生活を脅かすことになるため、期限は厳守してください。
修正方法
もし誤記があった場合は、修正液や修正テープは絶対に使用しないでください。二重線で抹消した上で、正しい内容を余白に記入します。訂正印は原則不要ですが、管轄のハローワークの運用により求められる場合があるため、指示に従ってください。
5. 実務担当者の疑問を解決!よくある質問(Q&A)
| Q:会社による代筆での申請は可能ですか? |
|---|
| A:可能です。 ただし、事前に従業員の同意を得て「同意書」を自社で保管してください。その際、申請書(第2面)の申請者氏名欄には従業員の氏名を記載し、その横に「(申請について同意済み)」と明記することで、従業員の署名に代えることができます。 |
| Q:2回目以降の申請頻度はどうなりますか? |
| A:原則として2ヶ月に1回の申請が必要です。 初回申請が完了すると、ハローワークから「次回支給申請日」が印字された書類が送付されてきますので、それを使用して次回の申請を行います。 |
| Q:休業中にどうしても人手が足りず、一部就業した場合はどうなりますか? |
| A:支給単位期間ごとに「10日(10日を超える場合は80時間)以下」の就業であれば受給可能です。 しかし、これを超えて働いてしまうと、その期間(1ヶ月分)の給付金は全額支給されなくなってしまいますので、休業中の就労管理には十分注意してください。 |
6. 罰則と適正な申請について
最後に、育児休業給付金の申請において、事実と異なる記載(労働日数の改ざんや賃金の過大申告など)を行うことは厳禁です。
- 不正受給の罰則: 偽りの記載や証明により不正に給付を受けた場合、以後の支給が停止されるのはもちろんのこと、受給額の全額返還、および一定金額(最大で不正受給額の2倍)の納付命令が下されます。さらに悪質な場合は詐欺罪として刑事処罰される可能性があります。
- 事業主の重い責任: もし事業主が事実と異なる証明(虚偽の出勤簿の提出など)を行った場合、不正受給をした従業員と連帯して返還・納付の責任を負うことになります。
正確な賃金集計と労働時間の把握に基づき、適正な手続きを行うことが、会社と従業員双方を守ることに繋がります。
育児休業の手続きは複雑で、ミスが許されない業務です。少しでも不安がある場合や、イレギュラーなケースが発生した場合は、専門家である社会保険労務士にご相談ください。
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