おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。
障害年金の申請実務を行っていると、うつ病や統合失調症、双極性障害などの精神の障害について非常に多くのご相談をいただきます。しかし、ここ数年の審査の現場では、日常生活に大きな支障が出ており、ご本人やご家族がギリギリの状態で生活しているにもかかわらず、「2級非該当(3級または不支給)」とされてしまう、耳を疑うような厳しい裁決例が目立つようになってきました。
「長期間働けずに休職しており、ずっと家に引きこもっているのになぜ2級にならないの?」
「一般企業では全く働けず、就労継続支援B型事業所に少し通っているだけなのに、どうして就労可能とみなされてしまうの?」
このような疑問や、審査機関に対する強い理不尽さを感じている方も多いはずです。
今回は、障害年金実務本で紹介されている実際の審査請求等の裁決例をもとに、どのようなケースで精神障害の2級が非該当とされてしまうのか、その信じがたい理由と背景について、社労士の視点で1つ1つ丁寧に、徹底的に深掘りして解説します。精神障害で障害年金2級を目指す方にとっては絶対に知っておくべき審査のリアルが詰まっています。ぜひ最後までお読みいただき、申請の対策に役立ててください。
精神障害による障害年金2級の現状:審査はなぜ厳しくなっているのか?
精神障害の障害等級判定ガイドラインにおいて、2級の目安は「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」と定義されています。活動の範囲がおおむね家屋内に限られるような状態が想定されています。
私が、障害年金の師匠から教わった時は概ね
・1級・・・ほぼ寝たきり
・2級・・・家から出れない
・3級・・・配慮された労働ならできる
一般的に、気分(感情)障害などで一般企業で就労している場合には、2級と認定されることは非常に難しいのが現状です。
しかし、ここ数年の顕著な傾向として、一般就労をしていない(長期休職中である)場合や、福祉サービスである就労訓練施設や就労継続支援B型に通っているだけの場合であっても、2級を認めないネガティブな裁決が多発しています。
審査機関は、診断書や申立書の中から「通院ができている」「家族の支援でなんとか在宅生活が送れている」「作業所に週数回通えている」といった、「ごく一部のできていること」を針小棒大に切り取り、それを理由に「日常生活能力は著しく制限されていない」と拡大解釈する傾向が強まっています。
以前であれば2級が認められていたようなケースでも、2018年頃からは審査会でのハードルが非常に高く設定されるようになりました。ここからは、事例や実際の裁決例等を就労との関係で、第1部・第2部に分けて具体的に見ていきましょう。
【第1部】就労不能(休職中)でも3級・不支給(2級非該当)と裁定された事例
まずは、長期間にわたって就労不能であり、診断書の日常生活能力判定では十分に2級相当であるにもかかわらず、3級または不支給(2級非該当)としか裁定されないケースを3つ紹介します。
【事例①】母親の庇護のもとで日常生活と初期量の抗うつ剤処方で2級非該当
(取消裁決集2022年度、令和3年(国)515号)
診断書の「判定」平均は3.1、「程度」は(4)であり、ガイドラインの等級の目安では明確に2級に該当しているケースです。保険者意見書にも「障害等級の目安は『2級』」とされていましたが、結果は非該当でした。
| 裁決文の要約 | 「対人緊張が強く、外出に困難を感じ、自宅に引き籠もった生活が続いており、社会復帰できないことに対する自責の念が強く、意欲低下を来だし、身の回りの多くのことも母親の世話にならざるを得ず、前ぶれもなく突然涙が溢れてくることが多いとされ、日常生活状況は、在宅で同居者があり、家族以外との交流は乏しく、母親の庇護の下で辛うじて日常生活を送ることができており…(中略)…日常生活能力、労働能力共に著しく低下しているとされているのであるから、このような状態を総合勘案すると、それは、前記気分(感情)障害で障害等級2級に相当すると認められる例示に該当する」としつつも、 「母親の庇護のもと、日常生活を送れており、初期量の抗うつ剤の処方がなされている状況等から総合的に判断すると、日常生活が著しい制限を受けるものに該当するとは認め難い」として2級を否定しました。 |
|---|---|
| 社労士の解説 (ここが理不尽!) |
この裁決には強い憤りを覚えます。薬の量は病態や副作用など様々な医学的理由で調整されうるものであって、その「量」だけで障害の重症度を判断すべきではありません。ましてや、「母親の庇護のもと日常生活が送れている」ことが、どうして2級非該当の理由になるのでしょうか? 母親の献身的な介護(庇護)がなければ生活が破綻する状態であるからこそ、2級相当なのです。保険者は「入院していないと2級にしない」という乱暴な取扱いに変えようとしているかのようです。 |
【事例②】家族や就労支援スタッフとの交流により2級非該当
(取消裁決集2022年度、令和3年(厚)256号)
こちらも「判定」平均2.7、「程度」は(4)で、ガイドライン上は2級に該当するケースです。3級から2級への額改定請求を行いましたが拒否されました。
| 裁決文の要約 | 「幻覚妄想が続いており、意欲低下傾向であり、自閉的で集中力、理解力も低下していて、家事は親がしており、就労移行支援を受けているが、就労が近づくと幻覚妄想が悪化するため、現実的には就労は困難であり、長期間就労していないとされ、日常生活状況は、在宅で同居者はあり、就労支援のスタッフとの交流はあるものの、対人関係は家族のみに限定されているとされ…(中略)…日常生活能力は低下しており、労働能力は乏しいとされ、また、発病から現在までの病歴及び治療の経過等として、請求人は、平成■年■月以降は仕事に就いていない。」と認定しつつも、 前回診断書記載時との比較が「変化なし」にチェックされたことと、家族や就労支援スタッフとの交流は保たれていることを理由に2級を棄却しました。 |
|---|---|
| 社労士の解説 (ここが理不尽!) |
前回診断書と「変化なし」といっても、その「変化」をどの程度で判断するかは医師の非常に主観的なものです。前回診断書ですでに2級にすべき状態であったのに3級と裁定されていた場合、「変化なし=今回も3級」とするのは論理破綻しています。また、家族や就労支援の専門スタッフと「かろうじて交流ができている」だけで2級でないというのであれば、閉鎖病棟に入院等していない限り2級にはならないことになってしまいます。 |
【事例③】双極性障害について通院、在宅を理由に障害認定日2級棄却
(令和6年(厚)251号裁決・2025年3月)
障害認定日では休職しており、その後復職したものの再び休職。障害認定日から請求日までの4年半のうち「8割」は休職を余儀なくされているという非常に重いケースです。
| 裁決文の要約 | 保険者は「障害等級の目安は『2級』」と認めつつも、「認定日以降、気分の変動も目立たず安定し、活動性も高まり、部分的な家事子育てや日中の外出等行えていることが窺え、その後復職をしている状況等から総合的に判断すると」3級と主張しました。さらに裁決は保険者の主張以上に厳しく、以下のように述べました。 「請求人は、初診日以降、外来治療(通院)ができており、初診日から5か月後に休職してからは基本的に自宅で過ごす生活ではあったが、請求人の妻が復職して以降、子を保育園に送っていった後、昼間は自宅において一人で過ごしており、家からは何とか出るようにはしていたのであって…(中略)…復職している妻(週5日フルタイムで勤務)の援助を受けながら、在宅での生活を営むことができていたものと認めることができる。請求人のこのような障害の状態は、障害等級2級に相当すると認められるものの例示に該当しない。」 |
|---|---|
| 社労士の解説 (ここが理不尽!) |
これも非常に酷い裁決です。「自力で外来治療(通院)ができていること」や、「フルタイムで働く妻の援助を受けながら在宅で生活できていること」を理由に2級を否定しています。休職中で労働能力が著しく低下していても、「家から何とか出るようにしていた」「一人で留守番できていた」という事実を「活動性が保たれている」と拡大解釈しています。家族の過大な負担と犠牲の上に成り立っている生活であることを、完全に無視した判断です。 |
【第2部】就労訓練施設や就労継続支援B型への通所で2級非該当とされた事例
事例①〜③のような完全休職中ですら厳しいのに加え、リハビリや社会復帰の第一歩として「就労訓練施設」や「就労継続支援B型」へ通所している場合、審査側はそれを就労能力がある証拠としてさらに厳しく評価してきます。
【事例④】作業所に週1~2日通所を理由に障害基礎年金支給停止
(平成29年(国)5248号裁決・2018年1月)
双極性感情障害について、日常生活能力判定平均3.6・程度(4)という重い状態です。作業所に週1~2日通所し、月給はわずか1,500円。診断書の労働能力欄には「就労は不可」と明記されていました。
| 裁決文の要約 | 保険者は「1カ月あたり1日、5分の支援(訪問看護師)により一人暮らしをしており、作業所にも3年間継続して就労し、電車で、15分かけて通勤していること」を理由に2級非該当を主張しました。 裁決文では「週に1日〜2日であるが、職員からの積極的な声かけにより、何とか意志疎通を図りながら、チラシ配布や清掃の仕事に従事していたとされているのであるから、これらを総合勘案すると、それは、気分(感情)障害及び知的障害で2級に相当すると認められる例示に該当しない。」とされました。 |
|---|---|
| 社労士の解説 (ここが理不尽!) |
月給1,500円で週1〜2日の作業所通いを就労と同列に扱い、支給停止とするのは暴挙です。裁決文自らが「職員からの積極的な声かけにより何とか意思疎通を図りながら」と述べている通り、これは特別な支援・配慮があって初めて成立している福祉的な作業に過ぎません。一人暮らしについても「治療のために両親から離れるように言われた」という背景があるのに、それを自立生活の証拠として逆手に取るのは極めて不当です。 |
【事例⑤】訓練センターへの通所だけで不支給
(裁決集2013年、平成24年(国)687号)
統合失調症で、判定平均3、程度(4)です。就労はできず、多少家の手伝いをして、週に1~2回訓練センターに通所しているだけのケースです。
| 裁決文の要約 | 「人に対して過敏であり、気を遣い疲れやすく自ら人に話しかけられず、訓練センターにも週に1〜2回の通所がやっとで、その他は殆ど家にいて、多少家の手伝いはするが無為に過ごしており、現時点で就労能力はないとされているものの自宅では、多少家の手伝いができ、週に1〜2回にしても、訓練センターに通所して、訓練に参加ができていることなどから総合的に判断すると、これらの状態は、『家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの』とされる2級の基本例示には該当しない。」 |
|---|---|
| 社労士の解説 (ここが理不尽!) |
多少の家の手伝いと週1〜2回の訓練センターへの通所ができるだけで、活動の範囲が家屋内に限られるという2級の基本条件から外れると判断されました。これでは、リハビリのために少しでも外に出ようと努力すること自体が、障害年金の受給においてマイナスに働いてしまうことになります。精神障害者の社会復帰への意欲を削ぐ、非常に冷酷な裁決と言わざるを得ません。 |
【事例⑥】うつ病・就労継続支援B型に週4日通所で不支給
(裁決集2013年、平成24年(国)697号)
うつ病で程度(4)、判定平均3.3という重い評価でしたが、就労継続支援B型に週4日通所しているケースでの事後重症請求が不支給とされました。
| 裁決文の要約 | 「原動機付自転車を用いて…就労継続支援B型施設…に通うことができており、そこでの就労訓練としての内職作業を1年間継続できていることが認められ、また、仕事場での意思疎通に問題がないとされている。このような本件障害の状態は…(中略)…活動の範囲がおおむね家屋内に限られる程度のものとされる2級の基本例示には該当しない」 (さらに過去の病歴について)「過去に『不安障害』『パニック障害』と診断され…(中略)…これらの症状によって日常生活能力や社会生活活動および社会参加の制限が生じていることも否定することはできない。…したがって、本件障害の状態は、国年令別表に定める2級の程度に該当しない。」 |
|---|---|
| 社労士の解説 (ここが理不尽!) |
この裁決の不当な点は2つあります。第一に、B型への週4日通所や原付での通勤、1年間の継続実績を就労能力の高さとしてマイナス評価している点です。福祉的就労における配慮を無視しています。 第二に、診断書の請求傷病名が「うつ病」であるにもかかわらず、現在生じている嘔吐や耳鳴り等の身体症状による日常生活能力の低下を、「過去の不安障害やパニック障害(※神経症圏であり原則年金対象外)に起因するもの」と、何の医学的根拠もなく審査側が勝手に断定し、認定の対象から外している点です。審査側にとって都合の良いこじつけとしか言いようがありません。 |
なぜこれほど理不尽な非該当が続くのか?社労士による分析と「絶対に行うべき対策」
上記で紹介した6つの裁決例から痛いほどわかるように、現在の審査機関は「できないこと」の重大性よりも、「できていることの一部」を意図的に切り取って過大評価する傾向が極めて強くなっています。
家族の介護でなんとか生きている、福祉施設の配慮で少し作業できているという事実が、自立して生活できている、労働能力があるという判定に直結してしまうのです。この実態を知らずに、何の対策も打たずに漫然と診断書を提出してしまうと、不支給や等級落ちが確定してしまう重大なリスクがあります。
社労士からのアドバイス:審査の壁を突破するための「絶対対策」
このような厳しい審査の網の目を潜り抜け、正当な2級認定を勝ち取るためには、以下の対策が不可欠です。
- 診断書作成前の「医師への徹底的な情報提供」
医師に対して、診察室では見えない「家の中でのリアルな生活状況」を伝えてください。「家族がどれだけ手を貸しているから生活できているのか」「B型作業所でどのような特別な配慮(声かけ、休憩の多さなど)を受けているから通えているのか」をメモにして渡し、診断書の備考欄等に反映してもらうよう依頼することが重要です。 - 「病歴・就労状況等申立書」での強力な補足説明
診断書の数値だけでは、審査側に「できている」と拡大解釈される隙を与えます。申立書で、「自力で通院しているが、帰宅後は疲労困憊で寝込んでいる」「B型に通所しているが、月給は数千円であり、作業も職員の常時サポートが必須である」という事実を、これでもかというほど具体的に、克明に記載し、審査側の反論を封じる必要があります。
- 参考リンク:日本年金機構(障害年金)
- 参考リンク:厚生労働省(精神の障害に係る等級判定ガイドライン)
精神障害の障害年金請求は、年々その難易度と理不尽さを増しています。ご自身の状況がどのように評価されるか不安な方、休職中の方、就労支援施設に通いながら申請をお考えの方は、一人で悩まず、申請前にぜひ専門家である社会保険労務士にご相談いただくことを強くお勧めします。
コメントや相談したいことがある方はぜひ公式LINEからお気軽にご連絡ください。
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