現在、議論中(改正が確定したわけではありません)の労基法の法案について、東淀川区の社労士が解説します。

労基法の「40年ぶり大改正」で何が変わる?
── 議論中の20のポイントを社労士目線で整理してみた

「フリーランスも労基法の保護対象になるかも」
「14連勤は禁止の方向で議論が進んでいる」

そんなニュースを見て、不安になったり、顧問先から質問を受け始めている社長さんも多いと思います。

この記事では、現在、厚生労働省の労働政策審議会・各種検討会などで議論されている
労働基準法「大改正」候補の論点20個を、できるだけ噛み砕いて整理してみます。

※あくまで「検討中の案」であり、まだ確定した法案・条文ではありません。
最終的な実務対応では、必ず厚労省の正式資料・法案を一次情報として確認する必要があります。


1.労働者の範囲拡大(偽装フリーランスの保護)

契約書の表題が「業務委託」でも、実態が労働者に近ければ労基法の保護対象とする方向で議論が進んでいます。

具体的には、次のような場合です。

  • 会社から指揮命令を受けている
  • 勤務場所・時間が拘束されている
  • 報酬が実質的に「時給・日給」のような形になっている

このような、いわゆる「偽装フリーランス」について、
労働基準法上の「労働者」として扱い、残業代・労災などの保護を与える方向が検討されています。

対象になりうる例としては、Uber Eats配達員、常駐エンジニア、専属ライターなど、
形式は業務委託でも、実態としては社員に近い働き方をしているケースが想定されています。

2.家事使用人の適用除外廃止

現在、個人家庭に雇われる家政婦・家事代行・ベビーシッターなどの家事使用人には、労基法が原則適用されていません。

これは歴史的に、
「家庭内に入り込む仕事で、労働時間の把握が難しい」という理由からの適用除外でしたが、
現代の感覚や働き方に合わないのではないかという問題意識が強くなっています。

そのため、家事使用人にも労基法を適用し、長時間労働の是正などの法的保護を付与する方向で議論が行われています。

3.36協定・就業規則の「企業単位届出」

現行では、36協定や就業規則は、原則として事業場(工場・支店)ごとに作成・届出が必要です。

改正の論点として、一定の要件を満たせば、
本社で一括して届出できる仕組み(企業単位届出)を認める方向が検討されています。

これにより、支店・店舗が多い企業では、
届出事務の負担軽減やペーパーレス化が大きく進む可能性があります。
一方で、本社一括の内容が不十分な場合には、グループ全体で一斉に問題が生じるリスクもあるため、内容の精査がより重要になります。

4.労働者代表(過半数代表者)の法制化

労働組合がない会社で36協定などを締結するときに登場するのが過半数代表者です。

現状は、

  • 会社が事実上「この人ね」と指名してしまう
  • 管理職が代表になってしまう

など、形骸化・利益相反の問題が指摘されています。

そこで、今後の方向性として、

  • 管理監督者は労働者代表になれない
  • 投票など民主的な手続きを法律で明示する
  • 場合によっては複数名を選出する形も認める

といった選出方法・任期・権限のルールを法律で明確化することが検討されています。

5.時間外労働の上限規制(特例の見直し〜廃止論)

現在の上限規制は、

  • 原則:月45時間・年360時間
  • 特別条項付き36協定:年720時間、月100時間未満 等

という二段構えになっています。

しかし、
「この特例が長時間労働を固定化しているのではないか」という強い問題意識があり、
特別条項を縮小・廃止して、原則の「月45時間・年360時間」に一本化すべきという意見も出ています。

一方で、人手不足業界などからは、
「今の上限でもギリギリなのに、特例がなくなると業務が回らない」といった懸念も強く、
今後の落としどころが注目されるテーマです。

6.労働時間の情報開示(見える化)

企業に対し、

  • 実際の残業時間の分布
  • 長時間労働者の割合

などの労働時間データを社外(求職者向け)・社内(従業員向け)に開示させる方向の議論も進んでいます。

狙いは、

  • 「ブラック企業」的な働き方を社会的な監視下に置く
  • 数字を見て、求職者が企業を選べるようにする

というもので、採用・定着・レピュテーションと直結する時代になっていくことが予想されます。

7.小規模事業場(10人未満)の週44時間特例廃止

商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業など、
一部の業種で常時10人未満の事業場については、法定労働時間が週44時間とされています。

これを見直し、
すべての業種・事業場で週40時間に統一する案が検討されています。

小規模な飲食店やクリニックなどでは、
従来どおりのシフトを組むと、今度はその一部が残業扱いになる可能性があり、
人員配置や営業時間の見直しが必要になるかもしれません。

8.テレワーク時のフレックス「部分適用」

現行制度では、

  • フレックスタイム制
  • 固定時間制(通常の所定労働時間制)

どちらか一方しか選べない設計です。

しかし実務では、

  • 出社日は「9:00〜17:00」の固定時間
  • 在宅勤務の日はフレックス

というハイブリッド運用を望む声が強く、
テレワークの日だけフレックスを適用できるようにする方向で見直しが検討されています。

9.管理監督者の明確化と健康確保

いわゆる「名ばかり管理職」を防ぐため、
管理監督者と認められるための権限・待遇などの要件を明確にする方向で議論が進んでいます。

具体的には、

  • 十分な権限や裁量があるか
  • 一般社員と比べて高い処遇・手当があるか

といった点を踏まえ、要件を満たさなければ管理監督者とは扱えない=残業代が必要という整理が想定されています。

さらに、たとえ管理監督者であっても、

  • 長時間労働時の産業医面談
  • 勤務間インターバル・休日確保

などの健康確保措置を企業に義務付ける方向も検討されています。

10.連続勤務の制限(最大13連勤へ)

現在の「4週間に4日の休日」というルールでは、
理論上48連勤も可能です。

これを見直し、
「2週間に2日の休日」を義務付ける=実質的に最大13連勤までとする案が議論されています。

とくに人手不足の業界では、
シフトの組み替えが必須になるほか、追加人員の確保が難しいといった声も出ており、
現場への影響は小さくありません。

11.法定休日の特定義務化

現行法では、「週1日の休日」が確保されていれば、
何曜日を休日にするかは自由です。

しかしその結果、

  • どの日が「法定休日」(35%割増)の対象なのか曖昧
  • 休日労働の割増が支払われていないトラブル

といった問題も生じています。

そこで、改正論点として、
就業規則などで「日曜日を法定休日とする」など、法定休日を明示的に特定させる方向が検討されています。

12.休憩の一斉付与原則の見直し

労基法では原則として、

「休憩は一斉に与えること」

が定められています。

しかし、テレワークやフレックス、裁量労働制など、
従来の「同じ場所・同じ時間」に全員が働くスタイルが崩れつつある中で、
一斉付与の原則が実態に合わないという指摘がなされています。

そのため、一斉付与を前提としない柔軟な休憩取得の仕組みに見直すことが検討されています。

13.勤務間インターバル制度の強化

勤務間インターバルとは、仕事が終わってから次の仕事の開始まで、
一定時間(目安は11時間)の休息時間を確保する仕組みです。

深夜24時に退勤した場合、翌日は11時以降に出勤、というイメージです。

日本では現在「努力義務」ですが、
今後、義務化またはより強い推進策とする方向での議論が行われています。

14.「つながらない権利」

つながらない権利とは、勤務時間外や休日に、

  • 上司からのメールやチャット
  • 会社携帯への電話

などに応答しないことを選べる権利です。

フランスなど一部の国では法制化が進んでおり、日本でも、
指針・ガイドラインや法制度としてどう位置づけるかが論点になっています。

とくに、

  • 顧客からの電話・連絡をどこまで制限対象に含めるのか

といった点は、日本型の働き方の中で摩擦が生じやすいポイントです。

15.年5日有給取得義務の見直し(例外の検討)

企業には、年5日の年次有給休暇を、時季指定義務として取得させる責任があります。

ただ、

  • 育休から復帰したばかりで、すでに多くの休暇を取得している場合
  • 退職が近く、本人が有休消化を望まない場合

など、一律に「5日取らせる」ことが現実的でないケースもあります。

そこで、年5日義務に、限定的な例外を設けるかどうかが検討されています。

16.時間単位年休の上限拡大

現在、1時間単位の年休は年5日分までと上限が定められています。

これを見直し、

  • 時間単位年休の上限を拡大し、より柔軟な運用を認める

方向の検討が行われています。

一方で、

  • 休暇が細切れになり、かえって十分な休息が取れなくなるのではないか

という懸念もあり、労働側からは慎重論も出ています。

17.有給付与の出勤率要件(8割)の見直し

翌年度の年休をもらうには、「全労働日の8割以上出勤」という要件があります。

この要件について、

  • 緩和または廃止するべきだという意見
  • 「働いていないのに権利だけ発生するのはおかしい」という経営側の反発

がぶつかっており、今後の調整が注目されます。

18.割増賃金率の引き上げ

時間外・深夜・休日労働の割増賃金率(原則25%など)について、

  • 割増率をさらに引き上げ、長時間労働を「コスト面から」抑制する

という方向も、検討テーマの一つとされています。

残業をさせる方が企業にとって高くつく仕組みを強化することで、
構造的に長時間労働を抑えていく狙いがあります。

19.副業・兼業の労働時間通算ルールの見直し

現行では、本業と副業の労働時間は通算して管理するのが原則です。

この通算ルールを見直し、

  • 本業・副業それぞれの会社ごとに完結させる(通算しない)

という案も議論されています。

企業側にとっては、

  • 「残業代計算が面倒だから副業禁止」という理由が薄れ、副業容認を進めやすくなる

一方で労働者側にとっては、

  • 本業+副業で長時間働いても、通算による割増賃金がつかなくなる可能性

があり、評価が分かれる論点です。

20.裁量労働制の拡大・見直し

裁量労働制は、「実際に働いた時間にかかわらず、一定時間働いたとみなす」制度です。

現在は、研究職やデザイナーなど一部の専門職が中心ですが、

  • 対象業務の範囲を拡大する
  • 手続きを簡素化する
  • その代わりに健康確保措置を強化する

といった方向での見直しが検討されています。

とくに、

  • 企画・立案・調査・分析業務など、ホワイトカラー全般にどこまで広げるのか

は、「実質的な長時間労働の温床にならないか」という懸念も含めて、大きな争点となりそうです。


いま社労士・人事担当ができること

ここまで紹介した20項目は、
すべて「検討中の論点」であり、現時点で確定した改正内容ではありません。

とはいえ、

  • フリーランス・副業・偽装請負
  • 名ばかり管理職と長時間労働
  • 年休・インターバル・つながらない権利

など、すでに現場で問題になっているテーマばかりです。

そのため、現時点で社労士・人事担当としてできることは、例えば次のようなステップです。

  1. 自社(顧問先)の働き方を、上記20項目に照らして棚卸しする
  2. とくにリスクが大きそうなところ(管理職・長時間労働・副業 等)の現状を把握する
  3. 今後、法案・ガイドラインが公表されたら、一次資料を必ず読み込んだうえで最終判断する

「改正が決まってから慌てて対応する」のではなく、論点の段階から方向性を押さえておくことが、今後の実務対応をスムーズにするポイントだと思います。


参考リンク(一次資料・公式情報)

※すべて実際に開いて内容を確認できたページのみを掲載しています。