おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。
働き方の多様化やライフステージの変化により、「正社員からパートタイム労働者へ雇用契約を変更したい」というご相談を企業様からよく受けます。
育児や介護など、従業員にとっても企業にとっても柔軟な働き方ができるのは素晴らしいことですが、ここで実務担当者を悩ませる大きな問題が発生します。
それが「年次有給休暇(有給)の取り扱い」です。
「正社員時代に付与された有給日数は減らしていいの?」「有給を取った日の給料はどう計算するの?」「時間単位で残っている有給はどうなるの?」など、疑問は尽きません。
今回は、正社員からパートへ(またはパートから正社員へ)所定労働時間や日数が変更になった場合の有給休暇の正しい処理方法について、マニアックな行政通達も交えながら、現役社労士が徹底解説いたします。
正社員からパートへ!既に付与された有給の日数は減るの?
まず一番多い疑問が「週5日の正社員から週3日のパートになったんだから、残っている有給日数も週3日基準に合わせて減らして良いですよね?」というものです。
結論から言うと、日数を減らすことは絶対にできません。
有給休暇は「付与日(基準日)時点での労働条件」で日数が確定するため、その後に雇用形態が変わっても、すでに付与された有給休暇の日数はそのまま引き継がれるという、労働者にとって安心のポジティブな基本ルールがあります。
正社員時代に「20日」の有給が付与されていて、全く使わずに翌月にパートへ転換した場合でも、残りの有給は「20日」のまま保持されます。
これを会社側の勝手な判断で「パートになったから」と付与済みの有給日数を減らしたり消滅させたりすることは、明らかな労働基準法違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される重大なリスクがあります。絶対にやめてください。
【要注意】有給を取得した時の「賃金」はどうなる?
日数はそのまま引き継がれますが、では「有給を取得した時に支払われる賃金(給料)」はどうなるのでしょうか?ここが従業員とのトラブルになりやすいポイントです。
有給を取得した日に支払われる賃金は、「有給を取得した日(休んだ日)の所定労働時間」に基づいて計算されます。
つまり、パートになった後の有給取得時の賃金は、あくまで「現在の契約上の労働時間」で計算されるため、正社員時代の8時間分の給与は支払われないというネガティブな注意点があります。
| 契約状態 | 有給1日取得時の賃金支払い例 |
|---|---|
| 変更前(正社員) 1日8時間勤務 |
有給を1日取ると、「8時間分」の給与が支払われる。 |
| 変更後(パート) 1日4時間勤務 |
有給を1日取ると、「4時間分」の給与が支払われる。(※正社員時代の8時間分ではない) |
従業員からすれば「正社員の時に頑張って貯めた有給なのに、パートになってから使うと半分の価値になってしまう!」と不満に思うかもしれませんが、これが法律上の正しい処理です。トラブルを防ぐため、雇用契約を切り替える際に必ずこの点について本人に説明し、納得を得ておくことが実務上非常に重要です。
※有給休暇の基本的な制度については、厚生労働省の特設サイトもご参照ください。
▶厚生労働省|年次有給休暇取得促進特設サイト
時間単位年休はどうなる?端数処理のマニアックな通達を解説
さて、ここからが本題です。さらに実務担当者を悩ませるのが「時間単位年休(時間休)」を導入している会社での処理です。
正社員時代に取得して余った「数時間分」の有給は、所定労働時間が変わった後、どのように計算し直せばよいのでしょうか?
これについては、厚生労働省から非常にマニアックな通達が出ています。そのまま引用して解説します。
問 年の途中で所定労働時間数の変更があった場合、時間単位年休の時間数はどのように変わるのか。時間単位の端数が残っていた場合はどのようになるのか。
答 時間単位年休として取得できる範囲のうち、1日に満たないため時間単位で保有している部分については、当該労働者の1日の所定労働時間の変動に比例して時間数が変更されることとなる。
例えば、所定労働時間が8時間から4時間に変更され、年休が3日と3時間残っている場合は、3日と3/8残っていると考え、以下のとおりとなる。
【変更前】3日(1日当たりの時間数は8時間)と3時間
【変更後】3日(1日当たりの時間数は4時間)と2時間(比例して変更すると1.5時間となるが、1時間未満の端数は切り上げる)
【社労士の解説】
つまり、変更前の「3時間」をそのまま持っていくのではなく、「1日の労働時間(8時間)のうちの3時間」という割合(3/8)として捉えます。
そして、変更後の1日の労働時間(4時間)にその割合を掛け算します。
計算式: 4時間 × (3/8) = 1.5時間
ここで「1時間未満の端数は切り上げる」というルールがあるため、1.5時間は切り上げられて「2時間」となります。
よって、変更後の有給残数は「3日と2時間」として管理するのが正しい処理となります。
※時間単位年休の制度概要については、以下のパンフレット等もご確認ください。
▶厚生労働省|時間単位の年次有給休暇制度を導入しましょう!(PDF)
次回の有給付与日数はどう計算される?
最後に、雇用形態が変更された「その後」の付与についてです。
次の基準日(有給が付与される日)が来たときは、「次の基準日時点での労働条件(所定労働日数・時間)」に基づいて、新たな有給日数が付与されます。
例えば、入社後3年半の基準日に、週3日勤務のパートであった場合、パート用の「比例付与」のテーブルに当てはめて有給が付与されることになります。
日数の確定はあくまで「基準日の時点」での契約内容に依存するということを覚えておきましょう。
まとめ:雇用形態変更時の有給トラブルを防ぐために
正社員からパートへ、あるいはパートから正社員へ雇用形態が変わる際、有給休暇の処理は給与計算ソフト任せにしていると、思わぬ計算ミスを引き起こすことがあります。
- 付与された日数は絶対に減らさない
- 取得時の賃金は「今の契約時間」で支払う
- 時間休の端数は通達に基づいて比例計算・切り上げを行う
この3つの原則をしっかり守り、変更のタイミングで必ず本人へ「有給の残数と、取得時の賃金の仕組み」を書面等で説明するようにしてください。
「有給の管理が複雑すぎて合っているか不安」「就業規則の記載を見直したい」とお悩みの企業様は、ぜひ当事務所までご相談ください。正確な実務対応とトラブルを防ぐための労務管理をサポートいたします。
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