おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。
病気やケガで長期間会社を休まざるを得なくなった時、生活を支えてくれる頼もしい制度が「傷病手当金」です。そして、その病気やケガが長引き、一定の障害状態が残った場合に受給できるのが「障害年金」です。
しかし、ここで非常に多くの方が直面し、時にはパニックに陥ってしまうトラブルがあります。それが「傷病手当金をもらっていた期間にさかのぼって障害年金が支給決定されたことによる、傷病手当金の多額の返還義務」です。
今回は、なぜ同じ病気で両方の制度を利用すると「お金を返せ」と言われてしまうのか、その仕組み(併給調整)と、もし一括返還を求められた場合の正しい対処法について、現役社労士が分かりやすく徹底解説します。
この記事で分かること
同一傷病における「傷病手当金」と「障害年金」の併給調整とは?
まず大前提として、健康保険の「傷病手当金」と、厚生年金・国民年金の「障害年金(障害厚生年金・障害基礎年金)」は、同一の病気やケガを原因とする場合、原則として同時に両方をもらうことはできません。これを専門用語で「併給調整」と呼びます。
なぜなら、どちらの制度も「病気やケガで働けなくなった時の生活保障」という同じ目的を持った公的な給付だからです。国の制度として、同じ目的のために二重でお金を支給することはしないルールになっています。
※傷病手当金の基本的な受給条件やもらえる期間等については、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶傷病手当金とは?受給条件・計算方法と加入1年未満の注意点を社労士が解説
もし、同一の傷病で両方の受給要件を満たした場合、優先されるのは「障害年金」です。したがって、障害年金が受給できる状態になった時点で、原則として傷病手当金の支給はストップ(支給停止)となります。
なぜ「傷病手当金の返還」という恐ろしい事態が発生するのか?

では、なぜ「返還」という事態が起きるのでしょうか。
それは、障害年金の審査に長い時間がかかり、過去にさかのぼって支給決定されることが多いからです。
障害年金は、申請してから結果が出るまでに平均して3〜4ヶ月、長いと半年以上かかることもあります。また、「障害認定日請求」といって、過去の本来もらえるはずだった時期にさかのぼって年金を請求するケースも多々あります。
その間、生活費が必要なので、皆さんは目の前でもらえる「傷病手当金」を先に申請して受け取って生活しています。
しかし、数ヶ月後に無事「障害年金の支給決定」が下り、過去にさかのぼって年金が支給されることになると、過去に「傷病手当金」をもらっていた期間と、「障害年金」をもらえる期間が完全に重複してしまいます。
この重複した期間について、健康保険法により「すでに受け取ってしまった傷病手当金は、不当利得(過誤払い)として全額返還しなければならない」という絶対的な義務が生じるのです。
さらに厄介なのが、障害年金は「日本年金機構(年金事務所)」が管轄し、傷病手当金は「協会けんぽ等の健康保険組合」が管轄しているため、役所同士で勝手に相殺して振り込んでくれるわけではないという点です。
後日、協会けんぽ等から直接あなた宛に「〇〇万円を返納してください」という納付書が届き、自分で振り込み手続きを行わなければなりません。
実際の返納命令↓

返還額の計算方法と「差額支給」の仕組み
「じゃあ、今までもらった傷病手当金は1円も残らず全額返さないといけないの?」と不安になるかもしれませんが、安心してください。障害年金よりも傷病手当金の方が金額が高かった場合は、その「差額」は手元に残す(または追加で支給される)ことができます。
計算の基準は「1日あたりの金額(日額)」です。障害年金は年額を360で割って日額を算出します。
| 金額の比較 | 調整のされ方(返還の仕組み) |
|---|---|
| 傷病手当金 < 障害年金 | 障害年金の方が高い場合、傷病手当金は全額支給停止となります。すでに傷病手当金をもらっていた場合、その全額を返還しなければなりません。(※ただし、返還額以上の障害年金が振り込まれるためトータルで損はしません) |
| 傷病手当金 > 障害年金 | 傷病手当金の方が高い場合、「傷病手当金 - 障害年金」の差額分が、傷病手当金として支給されます。すでにもらっていた場合は、障害年金の日額分だけを返還することになります。 |
なお、全く別の病気やケガ(例:うつ病で傷病手当金をもらいながら、足の骨折で障害年金をもらっている等)であれば、併給調整は行われず、両方を満額受け取ることができます。
【超重要】高額な一括返還を求められた場合の正しい対処法

障害年金の支給が決定すると、しばらくして協会けんぽ(または健康保険組合)から「返納金納入告知書」という書類が届きます。そこには、数十万円から、場合によっては百万円を超える金額の「一括納付」が記載されていることが多く、多くの方がここで血の気が引く思いをします。
しかし、落ち着いてください。正しい対処法を知っていれば何も怖くありません。
- まずは年金の初回振込を待つ
原則として、傷病手当金の返還は「過去にさかのぼって支給された障害年金の初回振込金(まとまったお金)」を原資にして支払う想定になっています。間違っても、年金が振り込まれる前に手元の貯金を切り崩したり、借金をしてまで慌てて返還しないでください。 - どうしても一括が厳しい場合は「分割納付」の相談を!
タイミングによっては、年金の初回振込日よりも前に、傷病手当金の納付期限が来てしまうことがあります。また、日々の生活費でどうしても一括で返すのが困難な事情がある場合もあります。
その場合は、納付期限が切れる前に、速やかに協会けんぽ等の担当窓口へ電話で連絡し、「分割納付」の相談をしてください。
健康保険組合の判断にはなりますが、誠意を持って生活状況や年金の振込時期を説明すれば、分割払いや納付期限の猶予に応じてくれるケースがほとんどです。
絶対にやってはいけないのは、通知を無視して放置することです。放置すれば督促状が届き、最悪の場合は財産の差し押さえ等の法的措置に発展する可能性もあります。払えない事情がある時こそ、自分から先に連絡することが鉄則です。
まとめ:障害年金を申請する前に「返還」を想定しておく
傷病手当金と障害年金は、どちらも休職中のあなたを守る大切な権利です。しかし、制度の仕組み上「一時的な返還手続き」が発生してしまうことは避けられません。
これから障害年金を申請する方は、「さかのぼって年金が認められた場合、これまでもらった傷病手当金は後で返さなければならない」ということをしっかり理解し、年金が振り込まれたからといって全額生活費に使ってしまわないよう、計画的に資金を管理してください。
【参考リンク】
傷病手当金と年金は、同時に受給できない場合があります。過払いになった傷病手当金は返納していただく必要がありますので、ご注意ください。|協会けんぽ高知支部
障害年金の申請手続きや、傷病手当金との調整計算などでご不安なことがあれば、いつでも弊所へご相談ください。
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