おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。

企業にお伺いすると、「パートさんや契約社員の給料、実は現場の担当者のさじ加減でバラバラに決めているんです…」といったご相談をよく受けます。
雇用区分ごとの処遇ルールが曖昧なままだと、同じような仕事をしているのに評価や賃金に差が出てしまい、従業員の不満や離職につながりかねません。

こうした「場当たり的な運用」を改善し、社内のルールを整える大きなきっかけとなるのが「キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)」です。

名前が似ている「賃金規定等改定コース」とは内容が全く異なります。今回は、この「賃金規定等共通化コース」の制度の本質、受給のための詳細な要件、そして実務の現場で非常によくある「助成金の取りこぼしパターン」について、現役社労士が徹底解説いたします。

賃金規定等共通化コースとは?制度の「本質」を解説


キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)とは、就業規則または労働協約の定めにより、有期雇用労働者等(パート、アルバイト、契約社員など)と正規雇用労働者(正社員)との間で、共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に支給される助成金です。

【支給額(1事業所当たり1回のみ)】

企業規模 支給額
中小企業 60万円
大企業 45万円

この助成金は、単なる「賃上げ(ベースアップ)」に対する助成金ではありません。
このコースの最大の本質は、非正規社員の賃金ルールを、これまでの「場当たり的な運用」から、明確な「制度運用」へと切り替えることにあります。

「担当者によって時給の決め方が違う」「正社員と同じ仕事をしているのに、評価基準が整理されていない」といった社内のブラックボックスを解消し、誰もが納得できる公平な賃金テーブル(等級制度など)を構築することが、この助成金の真の目的なのです。

受給のための主な要件(事業主・労働者)


本コースを受給するためには、厚生労働省が定める厳格な要件をすべて満たす必要があります。代表的な要件は以下の通りです。

① キャリアアップ計画の事前提出
必ず、新しい賃金規定を導入する前(実施日の前日等)までに、管轄の労働局へ「キャリアアップ計画」を提出し、認定を受けている必要があります。

② 賃金規定の「区分」に関する要件(超重要)
ただ共通の規定を作れば良いわけではありません。
・有期雇用労働者等と正規雇用労働者について、それぞれ「3区分以上」の等級等を設けること。
・そのうち、両者に共通する区分を「2区分以上」設けること。
・共通化した区分に、有期雇用労働者等を正規雇用労働者と同等、またはそれ以上の区分に格付けすること。

★等級区分例

賃金規定等共通化コースの等級区分例

③ 時間当たりの賃金額が「同額以上」であること
共通化した等級にいる非正規社員の基本給(職務に密接に関連する手当含む)の時間当たりの額が、同等級の正社員の時間当たりの額と比べて「同額以上」でなければなりません。

④ 適用前と比べて「減額」していないこと
制度を共通化したことによって、基本給や定額で支給されている諸手当が、適用前と比べて減額されていないことが必須です。

⑤ 共通化後「6か月分」の賃金を支払っていること
新しい規定を適用した後、対象となる労働者に6か月分の賃金を正しく支払い終わってから、支給申請を行う流れとなります。

※詳細な支給要件については、厚生労働省の以下のページおよびパンフレットを必ずご確認ください。
厚生労働省|キャリアアップ助成金トップページ
キャリアアップ助成金パンフレット(PDF)

【要注意】現場でよくある4つの「取りこぼし」パターン


制度の趣旨に賛同して規定を整備したのに、手続き上のミスで助成金がもらえなくなってしまうケースが現場では後を絶ちません。特によくある「4つの失敗パターン」をご紹介します。

パターン1:ルールを明文化せずに運用している
単なる「担当者のさじ加減」による個別対応や、ルールを就業規則等の書面に明文化せずに運用している曖昧な状態では、要件を満たすことができず対象外となってしまいます。必ず就業規則等に「賃金テーブル」や「昇格・降格の基準」を客観的に明記し、労働基準監督署へ届け出る(または周知する)必要があります。

パターン2:一部の人だけに個別対応している
「優秀なパートさん1人だけを正社員と同じテーブルに乗せた」というような一部だけの適用はNGです。共通化した賃金規定は、その適用範囲に該当する「すべての」有期雇用労働者等と正規雇用労働者に適用させなければなりません。

パターン3:計画提出前に、先に制度を動かしてしまった
管轄労働局へ「キャリアアップ計画届」を提出する前に、新しい賃金規定を施行・運用し始めてしまうと、どれだけ立派な制度を作っても助成金は1円も支給されず、完全な不支給(機会損失)という重大なペナルティになります。順番は絶対に「計画届が先」です。

パターン4:申請期限を見落としている
共通化後6か月分の賃金を支払った日の「翌日から起算して2か月以内」が支給申請期間です。この期間を1日でも過ぎると申請できなくなりますので、スケジュール管理は徹底してください。

【よくある質問】賃金規定等共通化コースのQ&A


最後に、事業主様や担当者様からよくいただく質問にお答えします。

Q1. 「賃金規定等改定コース」とは何が違うのですか?

「改定コース」は、現在の非正規社員の基本給を一律で「3%以上増額(ベースアップ)」した場合にもらえる助成金です。一方、今回解説した「共通化コース」は、正社員と非正規社員で同じ賃金テーブル(等級制度など)を構築し、評価や賃金の基準を揃える(共通化する)という「制度設計」に対する助成金です。

Q2. 共通化した結果、正社員の賃金を下げることは可能ですか?

できません。本助成金の要件として、当該規定の適用を受ける「すべての」有期雇用労働者等および正規雇用労働者について、適用前と比べて基本給や固定手当を減額していないことが求められます。

Q3. うちの会社は正規雇用労働者(正社員)がいませんが、申請できますか?

正規雇用労働者が1人もいない場合は、共通化する相手が存在しないため、このコースは申請できません。有期雇用労働者等1人以上と、正規雇用労働者1人以上をそれぞれ共通化した区分に格付けする必要があります。

まとめ:非正規社員の処遇を整え、強い組織づくりを!


キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)は、単にお金をもらうためだけの制度ではなく、会社の土台となる「人事評価と賃金のルール」を根本から見直す絶好のチャンスです。
ルールが明確になれば、非正規社員のモチベーションが劇的に向上し、結果として優秀な人材の定着や企業の生産性向上へと繋がります。

「うちの会社でも共通の賃金テーブルを作れるだろうか?」「計画届の書き方が分からない」とお悩みの方は、ぜひお早めに専門家である当事務所までご相談ください。貴社の実情に合った制度設計から助成金の申請まで、トータルでサポートいたします。

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