おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。

「年金は早くもらった方が得なのか?それとも遅くもらって増やした方が得なのか?」

これは、これから年金を受け取る世代にとって永遠のテーマとも言える悩みです。
最近ではYouTubeなどでも「繰り上げ受給(早くもらう)最強説」や「繰り下げ受給(遅くもらう)推奨派」など様々な意見が飛び交っています。

結論から言うと、「何歳まで生きるか」は誰にも分からないため、万人に共通する正解はありません。
しかし、数字上の「損益分岐点」や、意外と知られていない「失業保険との関係」を知ることで、あなたにとっての最適解を見つけることは可能です。

今回は、最新の減額・増額率を使ったシミュレーションと、社労士として絶対に知っておいてほしい制度の仕組みを解説します。

60歳から受給?65歳まで待つ?繰り上げ受給の減額率と損益分岐点


まずは、本来65歳からもらう年金を、前倒しして60歳〜64歳の間にもらう「繰り上げ受給」についてです。

早くもらえる分、当然ながら毎回の受給額は一生涯減額されます。
昭和37年4月2日以降生まれの方の場合、減額率は1ヶ月あたり0.4%です。(以前は0.5%でしたが緩和されました)

いくら減るのか?(減額率早見表)

受給開始年齢 減額率(本来の額との比較)
60歳 0ヶ月 マイナス 24.0%
61歳 0ヶ月 マイナス 19.2%
62歳 0ヶ月 マイナス 14.4%
63歳 0ヶ月 マイナス 9.6%
64歳 0ヶ月 マイナス 4.8%

参考リンク:年金の繰り上げ受給|日本年金機構

【シミュレーション】総受給額はいつ逆転する?

本来の年金額を「年額150万円」と仮定して、60歳から繰り上げ受給(年額114万円に減額)した場合と、65歳から満額受給した場合の総受給額を比較してみましょう。

年齢 60歳受給(繰り上げ)
年額114万円
65歳受給(本来)
年額150万円
65歳 570万円 0万円
70歳 1,140万円 750万円
75歳 1,710万円 1,500万円
80歳 2,280万円 2,250万円
81歳(逆転) 2,394万円 2,400万円
85歳 2,850万円 3,000万円

※金額は概算です

このように、80歳までは「早くもらった方(繰り上げ)」が総額で勝っていますが、81歳になった時点で「本来の時期にもらった方」が追い抜きます。
男性の平均寿命が約81歳ですので、まさに「平均寿命まで生きるなら、待った方が少し得になる可能性が高い」という絶妙なライン設定になっています。

我慢して増やす?繰り下げ受給の増額率と損益分岐点


次に、65歳では受け取らず、66歳〜75歳まで我慢してから受け取る「繰り下げ受給」です。
こちらは1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額されます。

いくら増えるのか?(増額率早見表)

受給開始年齢 増額率(本来の額との比較)
65歳(本来) プラス 0%
70歳 0ヶ月 プラス 42.0%
75歳 0ヶ月 プラス 84.0%

参考リンク:年金の繰り下げ受給|日本年金機構

【シミュレーション】繰り下げの威力と逆転時期

同様に、65歳受給(年額150万円)と、70歳まで繰り下げて42%増額(年額213万円)になった場合を比較します。

年齢 65歳受給(本来)
年額150万円
70歳受給(繰り下げ)
年額213万円
70歳 750万円 0万円
75歳 1,500万円 1,065万円
80歳 2,250万円 2,130万円
82歳(逆転) 2,550万円 2,556万円
85歳 3,000万円 3,195万円
90歳 3,750万円 4,260万円

※金額は概算です

70歳まで我慢した場合、82歳になった時点で、それまでもらっていた総額を一気に抜き去ります。
そこから先は長生きすればするほど差が開き、90歳時点では約500万円もの差がつきます。

【重要】繰り上げ受給を選択する前の3つの注意点


「損益分岐点が81歳なら、早くもらって安心したいから繰り上げよう」と考える方も多いですが、以下のデメリットを必ず理解しておいてください。

  1. 一度決めたら変更できない
    一度繰り上げ請求をすると、あとから「やっぱり取り消して65歳に戻したい」ということは一切できません。
  2. 障害年金がもらえなくなるリスク
    繰り上げ受給後に病気や怪我で障害を負っても、「障害基礎(厚生)年金」を請求することができなくなります(事後重症請求ができなくなります)。これは大きなリスクです。
  3. 寡婦年金が支給されない
    国民年金の第1号被保険者期間の夫が亡くなった場合に妻に支給される「寡婦年金」は、繰り上げ受給をしていると支給されません。

※これらの注意点についても、日本年金機構のサイト(上記リンク)で詳細をご確認いただけます。

雇用保険(失業手当)をもらうなら年金はストップ!?


ここが今回の記事で最もお伝えしたいポイントです。
定年退職後、「失業保険(基本手当)をもらいながら、年金も繰り上げてダブル受給しよう」と考える方がいらっしゃいますが、これは原則できません。

65歳未満の方が、特別支給の老齢厚生年金や繰り上げ受給の老齢厚生年金を受け取る場合、ハローワークで求職の申し込みをして失業給付(基本手当)を受ける期間中は、年金の全額が支給停止されます。

つまり、「年金」と「失業手当」は両取りできず、どちらか一方(基本的には金額の高い失業手当)しか受け取れないのです。

参考資料:雇用保険の基本手当との調整|KKR

「62歳まで働いてから繰り上げ」という選択肢が賢い理由


以上の制度を踏まえると、実は「60歳ですぐに繰り上げ」よりも賢い戦略が見えてきます。
それは、「失業手当をもらいきってから、年金を繰り上げ受給する」という方法です。

具体的なモデルケース(60歳定年の場合)は以下の通りです。

  1. 60歳で定年退職する(または再雇用で少し働く)。
  2. 退職後、失業保険(基本手当)を受給する。
    (※失業手当は非課税であり、年金よりも手取り額が多いケースが一般的です)
  3. 失業手当の受給が終了する(例:61歳〜62歳頃)。
  4. そのタイミングで年金の「繰り上げ受給」を申請する。

この方法であれば、「失業手当」と「年金」の調整による支給停止を避けつつ、年金の空白期間を埋めることができます。
さらに、年金の繰り上げスタートを60歳から62歳に遅らせることで、減額率も24%から14.4%へと緩和されます。

また、年金受給額をあえて抑える(繰り上げ受給する)ことで、住民税非課税世帯の枠に収まりやすくなり、高額療養費制度などの負担が軽減されるメリットもあります。

税金や社会保険料を含めた手取りの考え方については、以前の記事でも詳しく解説していますので参考にしてください。

まとめ


年金の受け取り方に正解はありませんが、「制度を知らずに損をする」ことだけは避けたいものです。

  • 早くもらう(繰り上げ):81歳未満ならお得。ただし障害年金等のリスクあり。
  • 遅くもらう(繰り下げ):82歳以上生きるならお得。インフレ対策に有効。
  • 失業手当との調整:同時にはもらえない。失業手当受給後に年金を検討するのがベター。

ご自身のライフプランや健康状態、そして資産状況に合わせて、ベストなタイミングを選んでください。

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