おはようございます。大阪市東淀川区の社労士、井上です。
前回のブログでは「雇用保険料率」の変更タイミング(締日基準)について解説し、大変多くの反響をいただきました。
しかし、給与計算担当者の皆様を悩ませる春の法改正はこれだけではありません。むしろ本丸はここからです。
令和8年度(2026年度)は、例年通りの「健康保険料率・介護保険料率の改定」に加えて、新たに「子ども・子育て支援金」の徴収がスタートします。
ここで実務上、非常に大きな問題となるのが、「健康保険料が変わる月」と「支援金が始まる月」がそれぞれ1ヶ月ズレているため、給与計算ソフトの設定漏れや二重引きなどのミスが非常に起こりやすくなっているということです。
この変更タイミングを間違えると、従業員の手取り額が連続して変わり、「会社から搾取されているのでは?」と不信感を抱かれる原因になりかねません。
今回は、この複雑怪奇な「社会保険料の天引きタイミング」について、自社のルールごとにいつから変更すればよいのか、表を用いて分かりやすく徹底解説いたします。
令和8年度の社会保険料改定と「支援金」の概要
まずは、今年度何がどう変わるのか、基本事項を確認しておきましょう。
① 健康保険料率・介護保険料率の改定(3月分保険料から)
協会けんぽの健康保険料率と介護保険料率は、原則として毎年「3月分(4月納付分)」から改定されます。都道府県ごとに料率が異なりますので、必ず自社の所在地の料率表を確認してください。
▶【大阪支部】令和8年度の保険料額表はこちら(協会けんぽPDF)
② 子ども・子育て支援金の開始(4月分保険料から)
令和8年度より、少子化対策の財源として「子ども・子育て支援金」が新設され、医療保険料(健康保険料)に上乗せされる形で徴収が始まります。
ここで最大のポイントは、支援金のスタートは健康保険料の改定から1ヶ月遅れた「4月分」の保険料からと定められている点です。
※子ども・子育て支援金の詳しい仕組みや計算方法については、以下の記事で解説しています。
▶【関連記事】子ども・子育て支援金とは?企業が負担する金額と実務対応
最重要!自社は「翌月控除」か「当月控除」か?
制度のスタート月(3月分・4月分)が分かったら、次は「それがいつの給与から天引きされるのか」を確認します。実務上、自社のルールが【翌月控除】か【当月控除】かを正確に把握しておくことが、トラブルを防ぐ最大の防御策です。
社会保険料は、原則として「前月分の保険料を当月の給与から控除する」という翌月控除が法律上の基本ルールです(厚生年金保険法第84条等)。しかし、給与の締日・支払日の都合上、当月分の保険料を当月の給与から控除する当月控除を採用している会社もあります。
・翌月控除(一般的):「3月分の保険料」を「4月に支払う給与」から引く
・当月控除(例外):「3月分の保険料」を「3月に支払う給与」から引く
まずは、御社の給与規程や過去の給与明細を見て、どちらのルールで天引きを行っているかを確認してください。
【一覧表】具体的な保険料改定タイミングまとめ
それでは、自社の控除ルール別に、今年の春の「健康保険料改定」と「支援金スタート」がいつの給与に反映されるのか、一覧表で確認しましょう。
| 自社の控除ルール (具体例) |
健康保険料の改定 (3月分保険料から) |
子ども・子育て支援金 (4月分保険料から) |
|---|---|---|
| 翌月控除 例:月末締め翌月25日払い (大半の企業がこちら) |
4月支給分の給与から改定 | 5月支給分の給与から追加徴収 |
| 当月控除 例:20日締め当月末日払い |
3月支給分の給与から改定 | 4月支給分の給与から追加徴収 |
【今年の給与計算の最大の罠】
表を見てお気づきでしょうか。一般的な「翌月控除」の企業の場合、4月の給与で健康保険料が変わり、さらに5月の給与で支援金が引かれ始めるため、「2ヶ月連続で社会保険料の天引き額が変わる」という異常事態になります。
従業員からすれば「先月も手取りが減ったのに、今月もまた引かれる額が増えている!会社が計算を間違えているのでは!?」と大きな不安と不満に繋がります。
控除月を間違えた場合のリスクと事前の対策
もし、給与計算ソフトの設定変更を忘れ、控除のタイミングを間違えて保険料を少なく天引きしたまま放置してしまうと、不足分を後日一括徴収することになり、労働基準法違反(賃金全額払いの原則違反)に問われるなど、従業員との間で取り返しのつかない重大な労使トラブルに発展するリスクがあります。
逆に、多く引きすぎてしまった場合は、速やかに返金・精算処理を行わなければならず、経理担当者の負担が激増します。
【トラブルを防ぐための対策】
1. 給与ソフトの設定確認:お使いの給与計算システムが、「健康保険料」と「支援金」の改定月を別々に設定できる仕様になっているか、サポートデスクに確認してください。
2. 従業員への事前周知:「今年は法改正により、〇月給与と〇月給与の2段階で保険料が変更(手取り額が変動)になります」というお知らせを、あらかじめ社内掲示板や給与明細へのメモ等で周知しておきましょう。
※社会保険料の控除に関する基本的なルールは、日本年金機構のサイトもご参照ください。
▶日本年金機構|厚生年金保険料等の標準報酬月額からの控除
【よくある質問】社会保険料の改定に関するQ&A
実務担当者様から特にお問い合わせが多い疑問点をまとめました。
Q1. 厚生年金保険料も春に変わるのですか?
いいえ、厚生年金保険料率は「18.3%」で固定されているため、春のタイミングで料率自体が改定されることはありません。(ただし、昇給等により標準報酬月額が変更された場合は金額が変わります)
Q2. 4月に入社した新入社員の支援金は、いつから引けばいいですか?
4月入社の場合、最初の保険料は「4月分」となります。
・翌月控除の会社:5月支給分の給与から、健康保険料と支援金をセットで天引き開始
・当月控除の会社:4月支給分の給与から、健康保険料と支援金をセットで天引き開始
入社月に「3月分」の保険料は存在しないため、新入社員については2ヶ月連続で額面が変わるトラップは発生しません。
Q3. 雇用保険料率の変更タイミングと一緒ですか?
全く違います。前回のブログでお伝えした通り、雇用保険料は「4月1日以降に締日が到来する給与」から変更します。社会保険料の「何月分か(当月・翌月控除)」という考え方とは根本的に異なるため、混同しないよう注意が必要です。
まとめ:今年の春の給与計算は超・要注意!
令和8年度は、「雇用保険料の引き下げ」「健康保険料率の改定」「子ども・子育て支援金のスタート」と、給与計算担当者にとって頭を抱えたくなるような複雑な変更が同時多発的に発生します。
「社会保険料は自社のルール(翌月か当月か)に合わせて、2ヶ月連続で変更する」ということを肝に銘じて、給与計算を行う前に必ずダブルチェックの体制を整えておきましょう。
「うちの会社のルールがイマイチ分からない」「給与計算が複雑すぎて手が回らない」とお悩みの経営者様・担当者様は、給与計算のアウトソーシング(代行)も含め、当事務所までお気軽にご相談ください。正確で安心な給与計算業務をサポートいたします。
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